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北陸工業新聞社
2023/01/23

【石川】クローズアップ/いしかわ2023/Vol.2/連続セミナー〜金沢のチカラ(1)/「自分たちの時代を残す」/水野一郎氏が若手世代に/JIA石川

 日本建築家協会(JIA)北陸支部石川地域会による建築設計事務所の若手世代を対象にした連続セミナー「金沢のチカラ〜さまざまな視点で読み解く金沢の魅力〜」の第1回目が19日、金沢職人大学校で開かれ、谷口吉郎・吉生記念金沢建築館長の水野一郎氏が金沢のまちづくりや建築文化の歴史、個性などについて語った。
 冒頭、石川地域会の石村聖一郎会長が「全国に一級建築士は約38万人いるが、JIAの全国会員は約3200人、石川県では約50人にとどまっている。今回の連続セミナーで金沢の建築の魅力を学びながら、若手世代の交流の場にしたい。皆さんは将来の業界を牽引する人材、JIA会員となって盛り上げて欲しい」などとあいさつした。
 水野氏はまず、「生誕から1万日(27歳4カ月)までが子どもの時期、1万日から2万日(54歳9カ月)までが親の時期、2万日から3万日(82歳2カ月)までが祖父母の時期。皆さんは40代、人生のど真ん中で自分の役割を決める時期であり、生き方をしっかり確立して欲しい。東京で生まれ育った私は37歳の時、金沢に行く決心をした」と切り出し、そのきっかけは「35歳の時の欧州旅行が大きい。各国の都市には個性があったが、日本の各都市は東京を追うばかりで、これでは負けてしまうと思い、自律的なまちづくりができる場所として金沢を選んだ」と述べた。
 非戦災都市である金沢の近代化への乗り遅れ感、その後の金沢市伝統環境保存条例、都市美文化賞制定などを紹介しながら「伝統と創造、保存と開発という相反する二律を両立させようということだった。一周遅れのトップランナーだが、江戸期から明治、大正、昭和の戦前・戦後の建築が残る歴史的重層性、バウムクーヘン都市として、過去の良いものを未来に伝えながら、平成、令和で自分たちの時代の建築文化を残すことが大切」と強調した。
 景観論争や用水の蓋外しのエピソードから「金沢は経済人や市民の決断が大きかった。それが金沢のチカラ。兼六園周辺文化の森は、都心のど真ん中を水と緑と史跡の公園とし、全国に誇れるものになっている。どう未来に受け継いでいくかが重要。官も民も、面白いチカラを持っている」と解説した。

「突破口を見つける時期」/日常生活に感動することも/フリートーク

 講演後、水野氏と参加者のフリートークに移り、建築や設計から、地域論まで幅広く議論した。この中で福井県出身者から「福井は戦災で焼けてしまい、金沢と違う。福井らしさをどう育むべきですか」との質問に、水野氏は「都市機能が郊外に移ってしまい、もったいない。都心部にできるだけ戻してみることもいい。福井は住み良さが全国トップクラス。3世代同居も誇れる」と述べた。「全国の中で金沢を選んだ理由は何ですか」との問いに、水野氏は「青森から鹿児島までを対象に探してみたが、都市の個性として外力導入型でなく、内発型で自律し、工芸をテーマにしていることが決めてになった」と答えた。
 人口減少時代を踏まえ、「地方で何ができるのか。建築や設計はどうあるべきですか」との質問に、水野氏は「今、建築は人手がかからないようにする傾向にある。設計もBIMでメカニカルな方向に進んでいる。木造もプレカットで組み立てるだけ。かつての木の技術はどこに行ってしまったのか」と述べ、「インドやアフリカの工房を見ると感動する。皆さんが『こんな建築もあるぞ』と切り開いて欲しい。工芸と一緒というのも一つの道であり、若い人たちに委ねたい。突破口を見つける時期だ」と呼びかけた。
 最後に水野氏は金沢のチカラについて「谷口吉郎氏のようにハイカラで、アクションを起こす人がたくさんいた。共通項としてお茶の文化がかなり影響し、それが金沢を支えてきた。日常生活の中で文化や美、感動を意識することが大切」と語った。
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 連続セミナーの第2回は2月22日、「雪国の建築と街づくり〜雪国という風土から読み解く金沢」をテーマに、45分の講演とフリートークで構成。会場は同大学校。
 第3回は3月17日、「伝統工芸と建築・街づくり〜金箔を含む伝統工芸から読み解く金沢」で30分の講演とグループディスカッションを行う。金沢学生のまち市民交流館が会場となる。
 問い合わせはJIA北陸支部事務局(TEL076―229―7207)まで。

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