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北海道建設新聞社
2025/08/05

【北海道】25年2月の苫前沖漁船事故で白鳥建設工業の起重機船が陸揚げに尽力

 ことし真冬の2月16日、苫前漁港から西約10qの沖合で、ホタテ漁船の転覆事故が発生した。荒波により船の引き揚げは困難を極めたが、行方不明者の捜索も交え、港湾工事を担う地元建設業者が連携して作業に当たった。時化(しけ)の合間を狙って沖に出た白鳥建設工業(本社・留萌)の起重機船が、同21日に転覆船を羽幌港へ陸揚げした。厳寒期の壮絶な海難事故に命懸けで奮闘した。(留萌支局・太田 裕士記者)
 ■救命胴衣未着用 続く死亡事故
 漁船の乗組員5人は全員が救命胴衣を着ていなかった。3人は助かったが、事故から5カ月余りが経過して、行方不明となった2人はいまだ見つかっていない。2025年は留萌管内で漁業以外でも救命胴衣の未着用による死亡事故が続いていて、観光客も含め再発防止が強く求められる。
 北るもい漁業協同組合苫前支所に所属する9・7t級の第二十八三宝丸は、2月16日早朝に苫前漁港を出港。正午からホタテ養殖籠の引き揚げを開始し、午後3時ごろにバランスを崩して左舷側から転覆した。乗組員5人のうち3人は通りかかった漁船に救助されたが、2人は行方が分からなくなった。
 救助船からの連絡を受けた漁協は留萌海上保安部などに通報し、建設業者などにも協力を要請した。捜索に向かった同海保は午後5時50分に現場近くの気象状況を計測している。北西から風速6mの風が吹き、波高は0・5m程度。気温は0度、海水温は6度だった。
 翌日の2月17日は周辺海域の捜索に加え、潜水調査も実施。函館、小樽の海上保安部や白鳥建設工業の潜水士が船内などを確認したが、行方不明者は発見できなかった。その後、同社や萌州建設(本社・留萌)が連携して転覆船の引き揚げを試みるも、荒天のため断念せざるを得なかった。
 船を陸揚げしなければ内部の細かな調査は難しく、漂流したままでは二次災害が起きる恐れもある。しかし、サルベージに必要な作業船は小型の船よりも波の影響を受けやすい。現場にたどり着いたとしても、うかつに引き揚げようとすれば一緒に転覆しかねない。
 ■関係者が尽力 荒波の中陸揚げ
 こうした状況を踏まえると、作業に最適なのは白鳥建設工業が持つ起重機船「暑寒3号」だった。最大吊り上げ能力200tのクレーンを有し、積載重量は1500t。単独での航行や旋回ができるため厳しい海況にも最大限対応できる。
 暑寒3号は留萌開建発注の天塩港航路浚渫その他の現場に参加していたが、元請けの堀松建設工業・ハラダ工業共同体が人命を最優先として工事を中断。堀松建設工業の橋本勲常務らが発注者との連絡調整など後方支援に回った。
 悪天候が続き二の足を踏む中、チャンスが訪れたのは事故から5日がたった2月21日だった。海況が落ち着くとの予報を受け、天塩港から白鳥建設工業の社員13人を乗せた暑寒3号が前日の20日に苫前漁港へ到着。関係機関が入り乱れて現場が混乱することを想定し、調整役として竹野利史工事部長も現地に赴いた。
 作業当日は午前6時半に出航した。竹野部長は「まだ暗い時間帯で、海の状況を確認しながらの運航だった」と緊張感をにじませて語る。同7時48分に現場へ到着。「通常なら作業を中止する波の高さだったが、この日を逃せば時化が続くため、人命重視で作業に取り組んだ」
 クレーンで吊り上げた船を固定し、午前11時ごろに羽幌港へ入港。雪が積もっていた荷揚げ場は萌州建設が除雪して待ち構えた。荒天の間も転覆船を監視した漁業者や留萌海上保安部など、多くの人の尽力により第二十八三宝丸は陸揚げされた。
 管内の港湾工事業者は留萌港湾事務所工事安全連絡協議会を通じ、普段から定置網の破損などで要請があれば情報を共有して対応に当たっている。関係者は「連絡体制が既に構築できていたため、うまく連携が取れた」と振り返る。
 ■事故再発防止へ救命胴衣着用を
 事故の原因は調査中だが、留萌海上保安部の坂本敬司次長は「救命胴衣を着ていれば行方不明者は出なかったかもしれない」と悔やむ。同海保は救命胴衣の着用を促す推進員制度を創立し、民間を巻き込んで地域の安全意識向上を図る。
 事故が起きてから嘆くのでは遅い。危険を危険と捉え未然に取り除く意識が必要だ。