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北海道建設新聞社
2011/02/24

【北海道】公共事業削減が当別町を直撃−地元有力企業倒産の波紋

 札幌圏の郊外に位置し、閑静な住宅街とのどかな田園風景が広がる当別町に再び激震が走った。昨年7月の北成建設に次いで、17日に泉亭建設が自己破産した。いずれも地元を代表し、道央での完工高が上位にランキングする建設会社。住民生活と深く関わる除排雪や災害復旧、雇用問題など建設会社の相次ぐ淘汰(とうた)が地域に与える影響は計り知れない。公共事業削減のうねりが小さな町を直撃し、地域社会≠揺るがし始めている。
 18日早朝、泉亭建設の社屋に「自己破産」を知らせる張り紙が貼られた。創業63年で親族から町長が出るほどの名門企業。その衝撃は大きく、町内に漂う重苦しい空気≠うかがわせる。
 札幌市内に本社を置く建設会社のある社長は「あの会社がまさか」と息をのみ、下請け建設会社の社長は「この影響はどこまで広がるのか。未曽有の危機が到来した」と肩を落とした。
 同町では2010年7月に北成建設が自己破産し、関連会社も連鎖倒産している。直前に経営危機の風評が出回ると、下請け会社は工事代金を確実に回収できる民間系の保証制度を利用するなど信用力は急速に低下していた。
 北成建設の元従業員の一部は、地元企業が再雇用したが、一部は新たな職を求めて町外に流出した。今回の泉亭建設に対し、主だった対策はなく、もぬけの殻となった社屋を見つめていた町民の1人は「これからどうなるのか」と不安を募らせた。
 人口1万8500人の同町は、稲作農業を中心に発展してきた石狩管内でも有数の米どころ≠セ。町内は建設業者の割合が他の町村に比べて高く、北成建設と泉亭建設も農業農村整備事業で業績を伸ばしてきた。
 水田や水路などの農業農村整備は、石狩支庁農業振興部(現在の石狩振興局産業振興部)の道営予算で1997年度が82億1900万円とピーク。しかし06年度になると52.6%ダウン。10年度は84.1%下回る13億500万円に激減している。
 石狩管内で農業農村整備事業を請け負う企業でつくる組織は、所在地別に建設事業石狩協会と石狩建設協会の2団体が活動し、農業振興の高水準ぶりを物語っていた。しかし両団体は予算が急降下した06年度に合併し「石狩耕親会」を立ち上げている。
 関係者は「小泉政権で公共事業の削減が始まり、民主党政権の戸別所得補償制度で予算がガタ落ちした」と工事量激減の背景を語る。
 当別町の予算も一般会計に占める普通建設事業費が1997年度に38億8900万円を記録したが、10年度は1億2900万円にすぎない。
 しかも公共工事の競争激化はとどまることなく、間近で進む大型プロジェクト、当別ダム建設工事は地元への恩恵が少ない。建設業者のプライドと地域の安全・安心の構図は崩壊の兆しを見せ始めている。
建設業者の減少で危惧されるのは除排雪体制と災害復旧の応急支援体制。建設業者が最も頼りになるのは、重機など資機材の保有と熟練したオペレーターの存在があることだ。当然のごとく業者の消滅は資機材と人材の消失を意味する。
 道央の建設会社の社長は「中小建設会社で営業利益率が1%あれば優良企業。経営は極めて難しい。この環境が続けば大雪や災害に手が回らない状況になる」と災害対応空白地帯≠フ出現を心配している。
 災害対応は建設会社のボランティア的な要素が強く、建設業者の減少と同時に、全国的にその対価の穴埋めが行政負担となって重くのしかかっている。
 建設業を取り巻く負の連鎖は、地域の衰退につながると推測されている。当別町内で建設会社を営む経営者は「道内どこの地方も同じような状況ではないのか」言葉少なにつぶやいた。
 建設産業戦略会議で建設業再生に取り組む国土交通省の大森雅夫建設流通政策審議官は1月20日に札幌で行われた北保証の講演で「公共施設の維持管理ができなくなり地域コミュニティーが崩壊していく」と語り、忍び寄る地域崩壊の危機に警鐘を鳴らしている。
 道央の別な建設会社の社長は「夏場の収益を地域に還元してきた。地域を支えてきた社会的立場を再認識してほしい」と訴えている。