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建通新聞社(神奈川)
2011/05/31

【神奈川】横浜市が総合的な震災対策

 「戦後最大の危機」―甚大な被害をもたらした東日本大震災は、自然災害の恐怖をまざまざと見せつけるとともに、日常の防災体制をあらためて問うものとなった。ただ、国と自治体の危機意識には温度差も見られ、対応にバラツキが出ている。こうした中、横浜市の林文子市長と川崎市の阿部孝夫市長が、震災対策で協力なリーダーシップを発揮している。
 横浜市は、5月議会の補正予算案と合わせて、「総合的な震災対策の考え方」を発表。老朽庁舎の応急耐震対策と民間建築物の耐震補助拡充などを盛り込んだ、今後の防災に関する総合的な方針を示した。
 4月8日に林市長を本部長とする震災対策本部を設置。「防災」「経済対策」など四つのプロジェクトチームが対策を集中的に討議し、わずか20日間で短期・中長期の施策を取りまとめた。5月補正と「総合的な震災対策の考え方」は、これらの議論の成果だ。
 「近いうちにまた大地震が起きる可能性がある。100%ではなくても、できるだけのことはしておく」(市民局)。実は地震発生時、横浜市では耐震性が十分でない庁舎から、市民を避難させた苦い経験がある。応急対策を実施する五つの区庁舎はいずれも老朽化が著しく、数年内に建て替えや大規模改修の着手を計画。今ここで対策を施しても効用はわずかな期間だが、それまでに起こりうる「万が一」に備える。
 民間建築物の耐震対策は、従来からあった木造住宅やマンションへの補助の拡充が柱だ。市は新耐震基準以前の木造住宅について、無料で耐震診断士を派遣しており、今回の補正で2011年度の派遣計画を当初比4割増の1300件に拡大。市の担当者が「計画通り申請があるか心配になるほど」という力の入れようだ。工事費の補助も木造住宅で最大300万円に引き上げ、さらに国の基準で適用外となった液状化被害住宅への補助制度(1戸当たり150万円、マンション1棟当たり1000万円)も新設した。
 補正額の合計は64億6900万円で、今日31日の議会で可決する予定だ。

■川崎市も独自の施策

 一方、川崎市は、4月19日に市長専決処分で震災対策の補正予算を成立させた上、阿部市長を本部長とする「東日本大震災対策本部」を設置。公共施設だけでなく、民間の医療・教育・福祉施設のすべての耐震化状況を調査し、必要な対策を検討するといった独自の施策を打ち出した。多くの人が集まる公共的な施設の被災は避けたいという強い意志の表れだ。
 転じて国の状況を見ると、被災地の復興や原子力発電所の問題で手いっぱいといった事情を斟酌(しんしゃく)しても、これから発生しうる災害にどう備えるのか、明確な方針が示されていないのが気掛かりだ。神奈川県内を管轄する河川や国道事務所の事業費は前年度に引き続き減少している上、5%の執行留保が付いている。
 財政事情が厳しいのは国も自治体も変わらない。横浜市は12年度、川崎市は14年度の財政収支黒字化を大命題としており、近年は歳出を絞った堅実な予算編成を続けている。政策的に組み換えが利くのは、むしろ過去最大の当初予算を編成した国のほうだろう。
 こうした中でも、両市は未曽有の災害に臨めば市民の安全・安心を守ることに専心し、いち早く対策を打ち出した。震災に正面から向き合い、迅速に対処した林、阿部両市長の決断によるものだ。
 とはいえ自治体がいくら施策を打ち出しても、できることには限りがある。やはり、何よりも大切なのは政府のリーダーシップだ。古来、わが国は度々大規模な地震・風水害に見舞われてきたことを再度認識し、災害多発国としての今後の在り方を示してもらいたい。国と自治体が一丸となって防災対策に取り組まなければ、本当の安全・安心は生まれない。