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建設新聞社
2016/03/15

【東北・宮城】東北の復興・創生に官民一丸/東日本大震災5年シンポ/東北建協連、東北整備局

 東日本大震災から5年という節目に合わせ、東北建設業協会連合会(佐藤博俊会長)をはじめとする建設関連5団体と東北地方整備局は10日、「東日本大震災5年シンポジウム〜建設技術者が果たした役割、そしてこれから〜」を仙台市の江陽グランドホテルで開いた。会場には約760人の参加者が集結し、5年間の歩みを振り返りながら、今後も官民一丸となって東北の復興・創生に力を尽くす決意を新たにした。
  開会に当たり、主催者を代表して東北整備局の川瀧弘之局長は「復旧が順調に進んでいるのは、震災直後から建設関係者が苦労しながら取り組んできたおかげ。東日本大震災を風化させず、得られた教訓を共有の財産として将来につなげていくことが大事だ。今後も東北のさらなる安全・安心の構築に向けて、建設関係者が一体となって取り組みを推進していこう」と呼び掛けた。
 続く基調講演では、造園家で東京都市大学教授の涌井史郎氏が「東北復興・レジリエンス性を高めたインフラ整備とその方向」と題し、建設関係者の役割や東北の復興に必要とされる取り組みを語った。この中で涌井氏は「大震災で東北は大きな被害を受けたが、災害を克服する精神力が東北の根底にはある。日本全国で巨大地震の到来が懸念される中、震災の教訓を後世に伝えていくため、震災を経験した建設技術者は普遍的な価値を備えている」と指摘。その上で、建設関係者に対し「請負にとどまらず、地域から頼られるエリアマネージメントのリーダーになるべき」と訴えた。
 また、東北の復興に向けて▽管理する発想のインフラ建設ではなく、地域のマネージメントに対応可能なインフラ整備▽多重防御の思想とグリーンインフラの活用▽ICTなど先端技術を活用し、労働生産人口の縮退と距離的不利性を克服▽将来世代に負担を残さぬ、身の丈に合った未来―などを提言した。

 パネルディスカッションには、震災当時に最前線で対応に当たった刈屋建設(岩手県)の上野祐矢氏(東北建設業協会連合会)、五洋建設東北支店の須川泰浩氏(日本埋立浚渫協会東北支部)、清水建設東北支店の橋林氏(日本建設業連合会東北支部)、大日本コンサルタント東北支社の向田昇氏(建設コンサルタンツ協会東北支部)がパネリストとして参加。東北大学大学院の姥浦道生准教授がコーディネーター、涌井氏がコメンテーターを務めた。
 参加者からは、災害協定や災害対応訓練、防災・減災教育といった事前の備えが重要とする意見が相次いだ。また、建設業が災害対応力を保持していくため、計画的・安定的な公共事業の確保や、非常時の入札契約制度確立が必要とする声も上がった。
 テーマごとの発言要旨は次の通り(敬称略)。
【初動対応が円滑に進んだ理由】
▽上野―道路啓開をスムーズに実施できたのは、災害協定とともに、突発的緊急事態への柔軟な対応力を蓄積してきたからこそ。地場の建設業としての地域への使命感、責任感で作業に当たった。
▽須川―航路啓開を円滑に進められたのは、東北整備局と協会が災害協定を締結していたことが大きい。結果として、9日間で被災した各港湾の1岸壁を使用可能とした。
▽橋―物資を自治体に届ける仕事を担当。日建連会員が日ごろからまとまっていたからこそ、緊急時に一体で対応できた。また、必要な物資の情報を得る際、国交省が派遣したリエゾンの存在が大きかった。
▽向田―東北整備局との協定に基づき、被災状況の調査や緊急橋梁点検を実施。協定に加え、2008年に発生した岩手・宮城内陸地震の経験を生かすことができた。
【次の災害を見据えた必要な取り組み】
▽上野―有事に際しての即時機動力が不可欠。地場建設業の役割が重要だが、機動力を保持するためには、自社で人員や建機を確保していかなければならず、計画的・安定的な公共事業の確保が必要。また、非常時は会計法に基づく予定価格制度が足かせとなるため、非常時の入札契約制度を確立しておくべき。
▽須川―災害協定の締結や広域での連携強化が必要。港湾では地元が全て被災者となった。指揮命令系統を明確化するとともに、どの岸壁に向かって航路啓開するかをあらかじめ決めておくことが重要。がれきの集積場所、処理方法も決めておく必要がある。
▽橋―三陸自動車道が住民の避難や緊急車両の通行を可能としたため、道路網を事前に整備しておく必要性を痛感した。自衛隊や警察ほどには建設業の活躍が伝わっていないので、国民に対しての広報活動を積極的に展開することも必要。
▽向田―阪神・淡路大震災で耐震設計基準が見直された影響で、橋脚のせん断破壊は発生していなかった。建コン協東北では、災害に迅速に対応できるよう委員会を新設するとともに、防災の日に合わせ災害時の対応演習も実施している。
【東北の復興に向けて】
▽上野―三陸沿岸では防潮堤をはじめインフラ復旧を急ピッチで進めているが、その構造物だけで地域が安心してしまう可能性が高い。子どもたちを含めた防災・減災教育が必要だ。
▽須川―国・自治体、民間が確実に連携できる協定を締結し、それに沿ってシステムを定期的に点検していくことが重要。
▽橋―防災集団移転事業の造成に携わっているが、10年後、15年後にこの地域がどうなっているか心配する部分もある。地域にとって何が必要かを考えながら計画することが必要。建設業も将来を見据え、担い手を確保していかなければならない。
▽向田―被災した構造物の復旧により、維持管理が必要な施設が一気に増える。負の遺産を引き継がないために、維持管理が容易な構造とすることが重要。また、こうした施設が一斉に更新を迎えることがないよう、計画的に維持管理していく必要がある。

 提供:建設新聞社