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建設新聞社(長崎)
2016/04/06

【長崎】入札先進県ながさきの継承 連載@

―入札契約制度から担い手3法の実効性確保へ―
  第1回 (一社)長崎県建設業協会専務理事・野田浩氏に聞く

 担い手3法の施行から3年目となる今年は、円滑な導入から実効性の担保≠ヨのステップアップが求められる。特に、3法の核となる公共工事の品質確保促進法(品確法)では、『将来にわたる公共工事の品質と担い手の確保』を基本理念に追加するとともに、発注者の責務を明確化。適正な利潤の確保≠ネど、基本理念に配慮した発注関係事務の実施が法で求められている。これを裏付けるように、品確法では、多様な入札契約方式の導入・活用も規定している。
 長崎県はこれまでも、業界を取り巻く状況を踏まえながら柔軟に入札契約制度を改正してきた歴史がある。そこで、県の入札契約制度の変遷と、そこに込められた想いを当時の関係者に聞き、現在求められている対策の方向性を探ることにした。
 1回目は、公共工事の入札契約適正化法(入契法)の施行当時、土木部技術情報室の参事として入札契約制度の見直しに携わり、その後も技術情報室長や土木部の参事監、理事として県の入札契約制度の検討に関わってきた野田浩(一社)長崎県建設業協会専務理事に話を聞いた。野田浩氏

入札の動向を常に検証・見直しを

 入契法の公布は今から15年前の2001年。公共事業をめぐる贈収賄や談合事件の多発で揺らいでいた国民の信頼の回復≠ェ大きな目的だった。入契法を踏まえ県では、第3者による入札手続きの監視に向けて入札監視委員会を設置。続いて予定価格の事前公表や談合に対するペナルティの強化なども行った。
 ただ県では「入札手続きの適正化≠ニともに県内建設産業の育成≠フ視点を忘れずに施策を展開してきたことが大きな特徴」(野田氏)。その最たるものが『指名選定システム』の構築だ。
 野田氏によると、それまでの指名選定は、出先機関長などのいわゆる星取表≠基にしたもので、「発注工事と技術力、地域事情などの状況を頭の中≠ナ総合的に咀嚼し、地域になじむよう熟慮した結果であり、これはこれで合理的な仕組みだった」という。ただこの手法は、第三者の介入による恣意的な操作≠煖Nこりかねず、透明性・公平性にも欠けている。

  透明・公平性の確保と県内企業育成を両立
 そこで考え出されたのが『指名選定システム』。経営力、技術力、実績など10項目の指標の評価結果の上位を客観的に選定し、第3者の介入を一切排除した。入札制度の透明性・公平性の確保を目指したものだが、評価指標には、地域性や当該年度の入札参加回数・受注程度といった各企業の状況を反映するものも設定。各指標の重み付けはシミュレーションを繰り返して検証し、従来の指名選定結果と整合性を図り、地元企業の育成との両立を実現した。
 県内企業の育成≠フ視点は、▽適正な利益の確保を目的に、最低制限価格を80%から85%に引き上げ▽最低制限価格と同額のくじ引き入札が頻発したことを踏まえ、予定価格の事前公表を導入の翌年度(03年度)に事後公表化▽制限付一般競争入札の適用を順次拡大(03年度・5億以上↓2億以上、04年度・2億以上↓1億以上)しつつも、指名競争入札を残した▽WTO対象の大規模工事以外は原則県内企業優先を明確化▽技術と経営に優れた企業の育成に向け、主観点数などを引き上げ(04年度・完工高と技術者数、05年度・技術者資格と従事職員数、06年度・格付け区分の引き上げによるAランク技術者数の増加)▽最低制限価格の適用拡大(1億円未満→WTO未満)―といった各種取り組みにも現れている。これらは、「国や他自治体の導入状況などは気にせず、必要なものを適宜導入していった」(野田氏)。
 一方全国的な動向に目を向けると、透明性・競争性の確保に偏重した一般競争の拡大で、ダンピング受注が横行。長崎ではこれらの動きにもいち早く対応。WTO対象の大型工事での低価格入札を排除するため、履行確認調査制度を導入した。落札者から、積算内容や施工体制などを事前に明示してもらい、審査の結果、履行の可能性が認められない場合は契約しないことにした。品質や安全性、労働環境、企業経営の確保などを目指した措置だ。国土交通省でも施工体制確認型≠ニして、同様の制度を試行したが、長崎での導入はその半年前だ。

  最良の入札契約制度はない
 時代の大きな流れの中、入札契約制度検討の最前線にいた野田氏は「入札契約制度は、どれが優れているというものではなく、それぞれ長所短所がある」と振り返る。入札参加者を選ぶ一般競争・指名競争・随意契約と、契約相手方を選ぶ総合評価。これらをうまく使い分けるとともに、各入札方式も社会情勢などにより常にアウトプットを検証して修正していく必要があるという。現在も活用されている指名選定システムも例外ではない。
 システムは現在、コンピュータでの自動処理などの進化を遂げている。ただ野田氏は、自動処理が結果的に、評価の仕組みを見えにくくしてしまっていることを懸念。「どんなに良い仕組みでも、状況の変化に応じて内容を調整しなければ陳腐化してしまう。常にメンテナンスしていく姿勢が必要」と、継続したブラッシュアップを訴えている。システムに限らず、発注者が公共工事の品質確保≠竍県内建設業の育成≠ニいった明確な理念と責任を持ち続け、入札・契約の動向を検証し、常に見直しを続ける姿勢が大切だといえる。ksrogo