トップページお知らせ >地方ニュース

お知らせ

地方ニュース

建設新聞社(長崎)
2016/06/16

【長崎】県立工業高から県内建設業への就職率急増

県立工業高から県内建設業への就職率急増
  要因と今後の対応を関係者に聞く野田専務


 土木系学科のある県立工業高校3校で、2015年度に卒業した就職者の県内建設業への就職率は37・8%で、前年度より7・2ポイントも上昇したことが分かった。(一社)長崎県建設業協会や長崎県建設産業団体連合会の専務として業界を挙げた取り組みを推進してきた野田浩専務は「これまで積み重ねてきたことが、実を結び始めたのではないか」と手ごたえを感じている。
 県立工業高校には、佐世保工業高校の土木科と、鹿町工業高校の土木技術科、大村工業高校の建設工業科の三つの土木系学科がある。15・16年度に3科の卒業生の進路状況の取りまとめを担当している鹿町工業高校の中島満雄教諭(土木技術科主任)に取材したところ、15年度の3科の卒業者数は116人で、このうち92人が就職した。就職者の88・1%を占める81人が建設業への道を選び、県内建設業への就職は37・8%の35人だった。
 データの集計が始まった08年度と比べると、この数字がいかに高いか分かる。当時は、卒業生の就職者に対する建設業への就職率は56・7%で、15年度より30ポイント以上も低い。さらに県内建設業の就職率は12・2%のわずか11人。15年度の3分の1以下で、多くの卒業生が県外の建設業に流出していた。
 その後の推移を見ると、就職者に対する建設業への就職率は6割前後で推移しつつも、県内建設業への就職率は毎年微増。そして13年度には、建設業への就職率が72・5%(前年度比15・7ポイント増)と大幅増。県内建設業への就職率も8・5ポイント増の32・4%で初めて3割を超えた。翌14年度も建設業への就職率が81・5%と増加。県内建設業の就職率も30・6%と高水準をキープした。中島教諭によると、14年度に県内建設業への就職率が下がった要因も、国・地方自治体の土木技術職員になる割合が多かったためで、「県内の土木業界には進んでいる」という。

 建産連設立で幅広い関係者連携し人材育成

 東日本大震災以降、国土強靭化の意識とともに、災害時に迅速に応急復旧に対応し、地域の安全・安心を守る地元建設業にスポットが当たった。東日本大震災の復旧・復興に取り組む仙台の建設業者らを講師に招き、震災翌年(12年2月)に開催した『長崎建協設立50周年記念講演会』には900人も詰めかけた。ただ当時の建設業界は、建設投資額の減少が続き疲弊が著しかった。そんな中、適正な労務・資材単価の実現など業界の横断的な課題の解決に向けて、県内の建設業団体が大同団結した「長崎県建設産業団体連合会」が設立した。
 県内建設業の就職率が急増した13年度は、奇しくも長崎建産連が誕生した年。長崎建産連では、県への初要望の際に既に、若手を中心とした建設産業技術者・技能者の後継者育成の取り組みに対する支援拡充を盛り込むなど、積極的な検討を実施。14年度早期に人材確保・育成協議会を設置、同年7月には、建設業界だけでなく県立工業高校関係者も含む教育・行政機関など幅広い関係者で構成する「産官学連携建設業人材確保育成協議会」を組織した。
 早速、県立高校への就職説明会(スクールキャラバン)や、大学新卒者・一般求職者などを対象にした「長崎県建設業合同企業説明会」の開催、さらには、イメージ訴求型のテレビコマーシャルを製作するなど、次々と具体的な行動を開始。15年度早々には、県立工業高校進路指導主事と業界との意見交換会も行った。
 13年度以降の県内建設業への就職率の向上は、これらの取り組みが奏功した事は間違いないだろう。ただ、この飛躍的な数値の上昇は、それ以前から続く、業界と工業高校とのつながりの積み重ねがベースにあったからこそだと指摘する人もいる。

礎をつくった 人材確保育成モデル事業松村氏

 09年度、文部科学省と委託契約した県の教育委員会と、国土交通省と委託契約した県建設業協会とが連携し、建設業人材確保・育成モデル事業『将来の長崎県の建設産業を担う人材の育成』がスタートした。ここでは、産業界・大学と、土木系学科のある県立工業高校3校が協力し、▽生徒の企業実習(現場見学や現場実習)▽技術者などによる学校での実践的指導(講師招聘)▽企業などによる教員の高度技術研修(教員研修)▽共同研究―に取り組んだ。モデル事業自体は2年間だったが、その後も『将来の長崎県の建設産業を担う人材の育成事業』に名を変え県の事業として継続している。
 特に、長崎大学のインフラ長寿命化センターと地元の建設業・工業高校が連携した『インフラ長寿命化体験実習』プログラムは、市町が管理する橋梁を主に点検するもので、全国的にも先進的な事例。身近な橋梁などの実情を観察し、劣化の原因やメカニズムを学習するだけでなく、点検報告書を、橋梁の管理自治体に提出することで、補修個所の早期発見による予防保全型の維持補修の実践につなげる効果もある。これまでに参加した生徒は100人に達しようとしている。

 産官学学連携で 県内企業に目が向く

 当時、建設業協会の事業コーディネーターとして、業界と工業高校との連携強化に尽力した(一財)建設業振興基金長崎拠点事務所の松村恵太郎専門役は、「体験学習によって、工業高校が地元の建設業者を知ることができた」と指摘する。建設業協会では以前(1995年)から、工業高校での現場実習を実施してきた。しかしこれは、「企業の技術者・技能者と高校の教諭とのつながりを深めたものの、学校と企業の組織的なつながりにまで至っていないケースがあった」。一方、体験学習は、長大と工業高校、地元企業、市町の産官学学≠ェ連携して取り組み、演習・実習だけでなく、社会貢献にもつながるもの。多くの時間を惜しみなく割いてくれる技術者・技能者の熱意が学校側に伝わり、「生徒の就職先として、県外の大手企業だけでなく、県内建設業にも目が向けられるようになった」(松村氏)。この言葉を証明するように、事業開始から毎年、県内建設業界への就職率が増加し続けている。そしてこの積み重ねが、昨今の県内建設業の就職率急増につながったと見ている。
 中島教諭も、人材育成事業の継続の有効性を訴える。「現場実習やインターンシップなどで、直接プロの指導を受けることで、生徒が土木の素晴らしさを実感することができた。企業の方々も、生徒のあいさつやマナーの良さ、安全教育が徹底されていることなどを理解してもらったと思う」。そして昨今の人手不足により、「従来即戦力≠求めていた企業が、高校生も求人するようになった」と、就職率の急増の要因を分析する。
 鹿町工業では今年5月、2〜3年生を対象にした『県内建設系企業による説明会』を初めて開催。「機械科や電気科など、ほかの学科の含めた従来の企業説明会では参加する建設企業数が限られてしまうため、地元(県北地区)建設企業に声を掛けたところ、18社もの企業が参加してくれた。私たちが説明するより、企業の方々に直接話をしてもらった方が、地元建設業の素晴らしさ≠ェ生徒たちに伝わると思った」(中島教諭)。人材育成事業の積み重ねによる学校と地元企業の良好な関係が、初開催に結び付いたのは間違いない。来春の県内建設業への就職率も高水準をキープしそうだ。

 将来に希望を持てる 賃金水準と就労環境

 今後は、この状況を維持していかなければならない。そのために松村専門役は「将来に希望を持てるような賃金水準と就労環境」が必要だと主張。野田専務も同意見で、「この実現は業界だけでは無理。まずは、企業の利益がしっかり上がるようにならなければならない」と、改正品確法で適正な利潤の確保≠ェ責務に掲げられた、発注者の取り組みに期待を寄せる。
 中島教諭も「福利厚生面や手当≠ナ県外の大手企業を就職先に決める生徒が少なくない」と明かす。また、大手と同じ待遇をしていても、求人票だけでは分からない地元企業があるとし、求人票の書き方(生徒へのアピールの仕方)も大切だとした。
 野田専務は、建設業に入職した高卒者の半分近くが3年以内に離職する実態にも触れ、「せっかく入職しても、定着しなければ意味がない」とし、定着促進策として(工業高校在籍時に受験可能な)2級施工管理技術検定の学科試験合格者への何らかの資格付与を提案。「配置技術者の補助などの役割を与えることで、やりがいや、目的の明確化につながり、実地試験の受験要件である3年以上の実務経験≠積むことができるはず」と考えている。中島教諭も高校在籍時に取得した資格の評価は「モチベーションにつながる」と大賛成だ。

 地元企業にアドバンテージも若者に配慮を中島教諭
 中島教諭によると、卒業生の3年以内の離職率が高い状況は「今も昔も変わらない」ものの、最近は離職後も建設業に再就職するケースが増えているという。「これも建設業の素晴らしさ≠在学中に理解したおかげでは」と推測。さらに、県外企業に就職した生徒の方が離職率が高いことも明かし、悩みを相談できる友人や家族が近くにいる地元企業には、定着に大きなアドバンテージがあるとした。ただ長崎は、県内でも(県北から島原など)会社から現場まで非常に時間が掛かるケースがあるため「就職して間もなくは、なるべく自宅から近い現場に配置してほしい」と気遣った。
◇◇◇◇
 県内建設業への入職・定着は、産学官共通の願い。今後も、産官学連携建設業人材確保育成協議会の場などを通じて、これまで以上に緊密に連携し、積極的な取り組みに期待したい。その中では社会に出たばかりで、多くの不安を抱えている若者≠ノしっかり寄り添った、さまざまな角度からの施策の検討が不可欠だ。
ksrogo