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建通新聞社(中部)
2017/01/01

【三重】新春対談 鈴木英敬三重県知事−山下晃三重県建設業協会会長

 伊勢志摩サミットを契機とした観光需要の増大など、地方創生への展開を支え、さらには2021年の「三重とこわか国体」開催に向けて、インフラなどの社会資本整備が一層重要になっている。これらの整備を担い、県土を守るという使命感にあふれる建設産業も活性化に向けての新たなステップの年を迎える。そこで、鈴木英敬三重県知事と、山下晃三重県建設業協会会長に17年に向けて展望や課題を語ってもらった。
◇2017年への抱負
 司会 17年を迎え新年にかける抱負から伺います。
 鈴木 16年は建設業協会の皆さんにもご協力いただき、伊勢志摩サミットを無事故で無事に成功に終えることができました。17年は、ポストサミットとして、お客さんにたくさん来てもらい、三重県の食がたくさん売れ、三重県の企業のビジネスが広がり、結果として三重県の経済が上向き、雇用が安定し、定住人口が増えることで、地方創生につなげる年にしていきたいと思います。併せて16年には熊本地震や鳥取地震、岩手県などで台風10号被害といった大規模な災害が発生しましたので、災害に対する備えをしっかりやっていきます。さらに18年のインターハイ、21年の三重とこわか国体に向けて、インフラ整備を含めてスポーツの推進、大会の成功に向けてがんばっていく年にしていきたい。
 山下 そうですね、昨年の今ごろは伊勢志摩サミットの開催に向けて、限られた期間の中で工事をやり遂げるという使命感で臨み、当協会の伊勢支部・志摩支部を中心に舗装修繕工事などに取り組み、余裕をもって工事を終えることができました。サミットが成功裏に開催できたことを建設業界の一員として大変うれしく思っています。開催後、外国の方も含めて宿泊者数が増えていると聞いていますし、観光の需要増につながるようなインフラ整備も進められることになればと期待しています。
◇「菓子博」「三重とこわか国体」に向けて
 司会 今年開催の菓子博や21年の三重とこわか国体と大きなイベントが続きますね。
 鈴木 菓子博は100年以上続く日本最大のお菓子の博覧会で、東海地区では、1977年の静岡大会以来40年ぶりで、三重県では初めての開催です。来場者60万人を目標としており、約130億円の経済効果があるといわれています。菓子博は、もともと菓子の工芸、匠(たくみ)の技を競う品評会が始まりで、全国からお菓子の技術が集まります。三重県内の和洋菓子職人も大会のシンボルとなる歌川広重の「伊勢参宮宮川の渡し」の浮世絵をモチーフにした巨大工芸菓子を菓子工業組合の青年部が中心になって作成しています。お菓子に限らず、四日市のとんてきや亀山の亀山うどんなど三重の食もPRします。
 山下 菓子博は建設業界とは直接的なつながりはないものの、家族で楽しめるイベントということで、建設業協会の福利厚生事業の一環として、前売り入場券を2000枚購入し、会員企業の社員、家族が足を運べるよう支援しています。
 鈴木 そうですか、いいことですね。菓子博も伊勢で行いますが、21年には「三重とこわか国体」もありますので、インフラなどの整備を進めます。17年度中に完成する施設としては、95億円をかけて大規模改修をしている伊勢の陸上競技場(「三重交通G スポーツの杜 伊勢」)があります。ここで、国体の開会式、閉会式、インターハイを行うこととしています。このメインスタンドには、サミットの国際メディアセンターで使った建設資材である木材や化粧砂利を再利用する予定です。 
 国体に向けての道路整備では、17年度には、国道42号松阪多気バイパス、国道422号三田坂バイパス、国道167号鵜方磯部バイパスを供用します。18年度には新名神高速道路の新四日市ジャンクション(JCT)〜亀山西JCT、東海環状自動車道の東員インターチェンジ(IC)〜大安IC、国道23号中勢バイパスの鈴鹿市御薗町〜津市河芸町、国道477号四日市湯の山道路も供用する予定です。併せて、ネクスコ中日本が東名阪自動車道の鈴鹿〜四日市の暫定3車線化を進めます。さらに、伊勢二見鳥羽ラインを3月に無料開放、県営サンアリーナ前のインターも常時開放する形で調整します。このように、17、18年度は、建設業協会や地元の各道路の期成同盟会の皆さんが働き掛けていただいた道路整備の成果が結実する重要な年になると思います。
 山下 三重とこわか国体に向けては、会場施設やアクセス道路の整備など、建設業界にとっても深く関わりがありますので、国体開催に向けて、全力を挙げて、インフラ、環境の整備に協力させていただきます。
◇みえ県民力ビジョン・第2次行動計画
 司会 第2次行動計画の「安心と活力を生み出す基盤整備」のポイントについて伺います。
 鈴木 道路の関係ですと、高規格道路を進めていく中で、先ほど申し上げた道路の他に優先順位が高い路線として、国道1号北勢バイパス、近畿自動車道紀勢線があり、それぞれに未事業化区間がありますので事業化を推進します。北勢バイパスは、鈴鹿四日市道路という形で、一日も早い事業化の決定に向けて中部地方整備局に要望しています。紀勢線についても計画段階評価に入って5年目を迎えますので、未事業化区間の新規事業化をお願いしています。北勢バイパスも紀勢線も、道路はつながってこそ意味があるので、そこをしっかり事業化してほしいと考えています。
 県民からの要望が高い県管理道路の整備についても、抜本的な改良だけではなく、早く柔軟に対応できるように道路整備方針に沿って、しっかりやっていきます。また、通学路の安全や道路の白線についても要望がたくさんありますので、限られた予算ではありますが、県警や建設事務所、地元の市町と協議し優先順位を考え、推進していきたい。
 インフラ全体でいけば、道路のみならず、堤防などでも維持補修、老朽化対策について、国の交付金も活用してしっかりやっていきます。三重県は、インフラメンテナンス協議会を全国に先駆けてつくってきた経緯もありますので、これからもがんばっていきます。
 山下 県土の基盤整備に向けての施策を伺い、大変心強く思います。ただ、お話にありましたように限られた予算の中ということもありますが、今しっかり先行して投資をしていただかないと何年か先に、必要な社会基盤や維持補修にも支障を来すことになるのではと心配しております。維持補修について、当協会は他県に先駆けて勉強会をつくろうということで、国土交通省、県の知恵も拝借しながら本年度に立ち上げるよう準備を進めています。
◇防災・減災体制
 司会 大規模自然災害に対して県の防災・減災体制の取り組みを伺います。
 鈴木 16年は熊本、鳥取での内陸直下型地震が発生しましたが、三重県としては当面の一番の重要な備えが大切と判断しているのが海溝型地震である南海トラフ地震に対しての対応です。ハード対策では、海岸堤防、河川の河口部の堤防について、脆弱(ぜいじゃく)箇所の補修を行い、そのめどが立ちつつあります。さらに木曽三川の堤防では国が直轄で液状化対策をやっていただいた。そして、海岸堤防については、粘り強い構造にするための施設整備も進めます。ソフト対策では、河川の浸水想定区域図を作成し危険な区域の状況をよく知ってもらい、ハードとソフトを組み合わせて命を救うということをしっかりやっていきます。
 三重県は、大規模な風水害などによる浸水対策を進めておりまして、その中で象徴的なのが、伊賀の川上ダムです。この地区は上野遊水地、木津川河川改修、川上ダムの3点セットで洪水対策を行う計画に基づき、ようやく川上ダムが17年度に本体工着手、22年度には完成予定ということで、この地域の皆さんが100年以上前から悩んでこられた浸水被害が軽減することになります。
 この他、全国に先駆けて津地方気象台と連携し、大規模な災害時には、災害対策本部に気象台が常時張り付いて対処するということに取り組みますし、台風の事前防災行動計画として紀宝町がつくったタイムラインを本県でもつくろうと思っています。熊本、鳥取地震の関係では、直下型地震に対して、耐震対策と家具の固定化を県民の皆さんに徹底し、まずは逃げ道を確保する対応をしっかりやっていきます。
 山下 いろいろな視点から防災・減災対策に取り組んでいただいており、県民として感謝しています。当協会としましても、ソフト・ハードの両面で取り組んでおりまして、ソフト面では東日本大震災の教訓から協会が独自に開発した情報共有システムを活用し、行政機関と連携して情報伝達訓練を実施しています。今後、全会員がさらに習熟度を高めるように訓練を重ねます。ハード面では、毎年発生するような地域の風水害に対しては各支部で訓練していますが、南海トラフのような大規模災害が発生した場合、各支部だけでは対応できないということで、協会の12支部が連携を取って対応していくための災害対応訓練を15年から実施しています。2年目となる昨年は知事にもご臨席いただき、一昨年と同様、国土交通省三重河川国道事務所、三重県県土整備部の共催を得て実施しました。訓練では、12支部から会員企業229社、386人が参加し、ドローンによる情報収集を行った後、道路啓開訓練、浸水地域の解消などの訓練を行いました。一昨年と比べるとスムーズにできたと思いますが、さらに充実させていくように今後も訓練を実施し、課題の解消に向けて取り組んでいきます。
 鈴木 訓練を拝見させていただき、暑い中、懸命に訓練する皆さんの真摯(しんし)な姿に心を打たれ、感謝の念でいっぱいです。訓練でできないことは、本番ではできませんので、そういう思いでやっていただいたと思っています。三重県は建設業協会さんと災害協定を結んでおりますが、危機管理という観点では、建設業協会なくしては、県だけでは危機対応ができません。地震が起きた時の応急工事や道路啓開はもちろんですが、鳥インフルエンザへの対応もあります。16年の暮れには青森や新潟で鳥インフルエンザが発生しましたが、三重県では11年に発生した時に、建設業協会の皆さんに多大なご尽力をいただきました。地震、風水害だけではなく、危機管理全体で建設業協会の皆さんの力を必要としています。訓練に参加してもう一つの収穫は、ドローンを操作させてもらったことです。その結果、防災対応や工事での確認作業などで活用してもらえればと16年10月に全建設事務所にドローンを配備しましたし、ドローンの世界的な技術を持った企業とも協定を結びました。こうしたきっかけにもなった非常にいい訓練でした。
 山下 地域の安全・安心を守っていくのは建設業界に課せられた社会的使命だと考えていますので、行政機関と連携を密にして、災害対応訓練に力を注いでいきます。今後は県民の皆さまにも見ていただけるようにして、万が一の時には、こうした体制で対応をしてくれると安心感を持っていただき、建設業の魅力や必要性を若者が感じてもらえるような機会にもなればと考えています。
◇「新三重県建設産業活性化プラン(仮称)」について
 司会 「新三重県建設産業活性化プラン(仮称)」の作成を進めるに当たり、地域における建設業の役割をどのように捉え、その上で、新プランのポイントをどのように考えていますか。
 鈴木 建設業が果たしていただいている役割を考えますと、一つには、県民の暮らしの基盤となる道路、河川、堤防、建物など良質な社会資本の整備を担っていただいているという大変重要な役割があります。それから先ほどの災害への対応において不可欠な存在であること。さらにもう一つは、安定的な雇用に努めていただいているという、三つの重要な役割を果たしていただいています。その建設業をしっかり応援していく、建設業が元気になっていくための努力を時代の変化に合わせながらしっかりやっていくことが大事だと思っています。
 山下 われわれ建設業としてもそうした使命感をもって臨んでおりますが、ただ、人もいない、機械もないということになると意気込みがあっても災害対応ができません。そのためには、やはり経営の安定が一番大切ですし、安定した経営には、安定した受注の確保が必要です。本年度は公共事業予算が前年度に比較して減っているということでしたが、上半期の発注率の目標を80%で対応いただき、安定的な受注が確保できました。下半期の発注量を心配しておりましたところ、補正予算を組んでいただき、非常にありがたく思っています。ただ、先行きの不透明感は依然としてあり、機械を買い替えたり、人材育成への投資までには至っていない状況にありますので、これらの実情を解消できるような施策にも考慮していただければと思います。
 また、建設業従事者については、高齢化が顕著で50歳以上の占める割合が45%を超えており、若年者の入職促進が喫緊の課題となっています。そのために、当協会では、現場見学やインターンシップでは、専門学科設置校の生徒だけでなく、普通科高校の生徒も対象にしています。参加は増えているのですが、建設業には入っていただけないのが現状です。
 地域の雇用の受け皿ということで、女性や障害者の方の雇用にも対応しようということで、特に障害者の方の雇用については、百数社の会員企業が受け入れをしています。障害者の方の雇用については、企業側の希望や障害者の方の状況の情報をお互いに共有できれば、雇用がもっと広がるのではと思っており、特別支援学校の生徒を対象にしたインターンシップを実施すべく準備を進めています。
 鈴木 素晴らしいことですね。障害者の皆さんにチャレンジする場を与えていただくということは本当にありがたいと思いますし、インターンシップというのは大変心強いです。
 新プランの作成に当たりまして、前回のプランでは数値目標は達成したのですが、建設業の皆さんが「良くなった」と実感するまでには至っていないのでは、と反省しているところです。そこで、プラン自体を発注者目線ではなく、受注者目線でつくっていくことが大事だと思っています。
 建設業の課題には、会長がおっしゃった高齢化、若者の入職者の減少という構造的な問題と経営の安定ということがあると思います。そこで、若者の就職でいえば、インターンシップの支援、土日完全週休2日制といった労働環境の改善などが大事ですね。そこで、新プランでは、受注者目線で、技能講習によるスキルアップや入札制度を改正し若手技術者が活躍できる場をつくったり、適正な予定価格の設定、平均落札率の向上、工事量の平準化にもしっかり取り組んでいきたいと思います。
 山下 当初の活性化プランは、全国に先駆けて、三重県でスタートし、国土交通省の「担い手3法」を先取りする形で取り組んでいただいたものですから、何か集まりがありますと、三重県の取り組みに大変関心を持っていただきました。新プラン作成に当たっては、受注者目線で課題を捉えていただくということで、業界と同じ方向を向きながら、一緒に汗を流していただけるということを非常にありがたく思います。
 新プランとは少し違いますが、2点お願いしたいことがあります。県は前向きに建設業のことを考えていただいていますが、われわれ業界にとっては仕事量の多くを占める市町との関係も大事です。そこで業界の活性化のために1点目は、「発注関係事務の運用に関する指針(運用指針)」の順守です。市町については、運用指針に対する取り組みに温度差が大きくありまして、不都合が生じる場合がありますので、県内の行政機関が歩調を合わせていただけるよう、県から市町にも働き掛けていただくようなことをお願いしたく思います。
 もう1点は、地域バランスです。県内各地で整備が必要な箇所があると思いますので、地域のバランスを考えて予算配分をぜひお願いします。
 鈴木 そうですね。そうした施策を市町でも取り組んでもらえるように、14年11月に「中部ブロック発注者協議会三重県部会」を設置しまして、改正品確法に基づき策定された「発注関係事務の運用に関する指針(運用指針)」を踏まえた施策や講習会を行ったり、三重県建設技術センターの活用の促進、建設業協会と市町の代表者との意見交換などに取り組んでいます。その成果として、15年度末には全市町で「歩切り」を根絶することができました。今後は、「予定価格の適正な設定」「適切な設計変更」「施工時期等の平準化」について改善に努め、全市町が適正に実施できるよう取り組んでいきます。
 ただ、市町の温度差は、制度の説明や一方的な情報提供だけではなくならないと思います。今、県土整備部もがんばってくれていますが、さらに温度差をなくすためには、コミュニケーションが必要です。業界がどのように思っていて、それに対してどういうことをするのか。そして、その結果、成果や課題も出てくる、ということをちゃんと人間の言葉として伝えることが大事だと思います。
 司会 最後に一言お願いします。
 鈴木 幹線道路の供用や、国体に向けての新たなインフラ整備にも入っていく重要な節目の年になると思いますので、建設業協会の皆さんと連携して、良質な社会資本が提供され、それを担っていただいている建設業の皆さんがハッピーに過ごしていただけるように県もしっかり汗をかいて努力していきます。
 山下 公共事業や建設業に対する知事の思いをお聞きして大変ありがたく思います。われわれも精いっぱいそれに応えられるようにがんばっていき、県民の皆さまから信頼してもらえるような建設業に向けて取り組んでいきます。

提供:建通新聞社