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建通新聞社(東京)
2017/06/26

【東京】都の入契改革 持続的発展の視点から検証を(社説)

 低価格競争への誘導ではないのか―。建設業界全体がそんな不安を抱く中、いよいよ東京都による入札契約制度改革の試行が始まる。オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を目前に控え、都内の建設需要がピークを迎えようとしている中で、都の公共事業は円滑に進められるのか。そして、小池百合子知事が繰り返す「品確法の理念を否定するものではない」「より多くの事業者が入札に参加しやすい環境をつくり、担い手を育成することが目的の一つだ」との主張は本当のことになるのだろうか。
 入札契約制度改革の実施方針に基づく制度改革として、都は@予定価格の事後公表AJV結成義務の廃止B1者入札の中止C低入札価格調査制度の運用範囲の拡大―を試行する。予定価格の事後公表は原則として全ての知事部局の工事、それ以外は財務局が契約する工事を対象とする。
 2017年度の試行は、予定価格の事後公表を除き、財務局が契約する一定規模以上の工事に限られている。であるにも関わらず、委託業務を含めた建設業界全体が都の入札契約制度改革に少なからず危機感を抱いている。それは試行の内容が「いずれ全ての案件に適用されるのではないか」との疑念があるからだ。
 知事が業界の声を反映するとして、突如実施したヒアリングでも、参加したほとんどの団体が危機感を表明し、中小企業が受注する案件への適用に反対の声を上げた。その背景には制度設計の前に繰り広げられた都政改革本部での議論がある。
 豊洲市場やオリパラ会場の整備、築地市場の解体という一部の特殊な工事を例に落札率や1者入札の問題点だけを強調し、「最低制限価格の限定運用」「1者入札の中止」が必要だと結論付けた。そこから導き出されたのは「公共調達は安ければ良い」との暴論だ。この間の建設業界の苦しみを省みることなく、またぞろ制度が変更されたことで、建設業界はダンピング合戦の再来となることを危惧しているのだ。
 とは言え、建設業者の多くは義務感や使命感から不調の多発や公共事業の遅れを避けるようと、採算の低い工事でも受注し、工期内の完成を目指すだろう。しかし、そうした企業努力は、結果として入札契約制度改革を軌道に乗せ、都政改革本部や小池知事が「小規模工事にも適用できる」と判断を下す材料になってしまう危険性をはらんでいる。建設業が前向きに努力を重ねるほど、課題のある制度が正当化され、自らの首を絞める結果に陥りかねない。知事ヒアリングで明確に反対の声を上げ、その結果、低入札価格調査の適用基準が見直されたように、常に課題と対応策を発信し続ける必要がある。
 公共工事における「ワイズスペンディング(賢い支出)」とは、高品質な工事を適正な価格で調達することではないのか。過度な価格競争によって地域の安全・安心を守っている建設業が衰退し、公共工事の担い手が減っていくことではないはずだ。都には、セーフシティをはじめとした三つのシティの実現、そして20年大会後も見据えた東京の持続的な成長という視点から、試行の結果を十分に検証し、制度の在り方を改めて探ることが求められている。

提供:建通新聞社