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北陸工業新聞社
2019/01/15

【福井】第5回ふくい建築賞/リノベに付加価値生む/審査委員西本雅人氏が講評(下)  住宅部門の講評

 住宅部門では現地審査を(1)〜(4)の作品全てが最終審査に進み、(1)が最優秀賞になりました。最優秀賞がリノベーションの住宅は過去初めてかと思います。外観がデザインできないだけに建築の審査ではどうしても不利になる面もありますが、リノベーションに付加価値を生み出した姿勢が評価されたのだと思います。
(1)ぶんきょうのいえ
 お施主さんが事務所の掲げる「サスティナブルリノベーション」というコンセプトを知って相談したことから始まったプロジェクトです。設計する前に床下まで設計者が潜り込み耐震状況を確認するなど地道な既存調査を丁寧にやられていることに共感が持てました。そして、古いものを単に綺麗にするだけでなく、環境性能を向上させることにも取り組む一連の姿勢が表れた作品でした。今後、住宅のリノベーションは増えていきます。この作品がそのお手本となると思いました。
(2)恐神の住居
 表層改良や農転、過去の土砂崩れなどのマイナスな諸条件がある中で、敷地内に残った建設可能な場所に素直に建てられた住宅です。配置計画としては設計者が考える部分はなかったのですが、その消極的な状況さえもコンセプトの強みとしてしまうところに設計者の力量が見られました。単純な矩形ではなく歪んだ平行四辺形の住宅の中は大きな吹き抜けが広がり、斜めになった壁と開口のバランスにより奥行き感が演出され、中がより広く見えるように計算されているようでした。
(3)阿難祖の家
 里山のふもとに建つ三世帯住宅です。もともとの古民家をリノベーションする考えもありましたが、3世代が家の建設に関わっていないことから、今後100年続くような新築をという思いで建てられました。この住宅を見学させていただいた際に既製品の扱い方が非常に上手だと感じました。サッシや建具、照明などの既製品を単純に用いずに、見付け幅の調整やモデュールを他の素材と合わせることによって既製品に感じさせないディテールが多々見られました。また既存民家の建具を照明に再利用している発想も秀逸でした。
(4)Icosagon
 住宅地の角地に控えめに建つ作品です。円形の建築を既製品で作ることは不可能ですが、円形に近い多角形の建築は作ることは可能です。その上で製材を無駄なく使用できるために試行錯誤した答えが半径20尺の二十角形(Icosagon)でした。また外壁のコーナー・パラペットのディテールなど設計者発案による納まりや寸法が随所に見られています。自分の納まりを作り出すという設計の醍醐味を楽しんでいるような作品でした。円形で内向きに開いている構成が周囲に対して閉鎖的だという考えも見られましたが、住宅だからこそ閉じることができる側面もあると思います。住宅の公共性について考えるきっかけになりました。

hokuriku