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西日本建設新聞社
2021/01/18

【熊本】特集・産学官座談会 「人材確保へ共通認識を」

 全産業の中でも、特に人手不足が深刻だとされる建設業。2030年度には、技術者は最大7万6000人、技能労働者は最大56万人不足するという推計もある。若い世代に期待したいところだが、業界への新規学校卒業就職者は1995年の約8万人をピークに減少の一途を辿っており、今では約4万人と半減している状況だ。
 そうした中熊本では、県建設業協会青年部や県土木部が連携しながら、現場見学会や就職ガイダンス等のイメージアップ事業を展開。18年度からは、熊本工業高校が文部科学省のスーパー・プロフェッショナル・ハイスクールに指定されたのを受け、産学官連携の動きが加速している。
 熊本工業高校では昨年12月、産学官の担当者が集う初の座談会を開催。熊本県建設業協会青年部の許大介会長、坂田圭一運営専務、熊本工業高校土木科の猿渡和博主任、村川拓也実習教師、熊本県土木部監理課の和田有生課長補佐、竪野誠一参事、村田葵主事の7人が、人材の確保・育成へ向け意見を交わした。
 冒頭、野会長は「今後より一層高齢化や人手不足が進む見通しで、人材の確保・育成は喫緊の課題だ」とした上で、「現場見学会や高校生ガイダンスなど、業界の理解が得られるような活動を積み重ねてきたつもりだが、まだまだ道のりは長い。お互いに本音で話し合い、共通認識を持つことで、更なる連携強化へと繋げていきたい」と力を込めた。

■人材不足が深刻化 今手を打たないと

 野 県内建設業従事者の高齢化は非常に深刻化している。7月豪雨の災害復旧現場は高齢の方ばかり。1人でも多く若い力を入れないと、迅速な復旧復興には限界があると肌で感じた。

 坂田 4週8休への取り組みを進めているが、現実的には厳しい。会社で休日を設定しても、工期に追われて結局出勤する場合が多く、今までの人たちが土曜日に当たり前に出勤している中、若い人だけに「休んでいいよ」とは言えない雰囲気がある。

 和田 建設業はインフラ構築だけでなく、災害対応を含めて無くてはならない「地域を守る産業」と認識している。だが、統計によると、55歳以上が4割、29歳以下は1割と若い人が極端に少ない。これでは、10年後に災害が起きた場合に対応できない。今手を打たないと取り返しのつかないことになる。

■進化する「建設業」 保護者の理解必要

 坂田 全国の青年部が集う全国大会で、工業系高校生や大学生、若手技術者等を中心に約5000人へアンケートした結果、私たちと高校生の間にギャップがあると感じた。例えば高校生の時、建設業界は怖い人が多いというイメージを持っているが、実際に業界に入ってきた人のアンケートを見てみると、そうでもなかったというような回答が多く見受けられた。給与や休暇面に関しては、各方面から協力頂き改善している最中にあると思うが、プラスアルファで高校生らとのイメージギャップを埋めていく取り組みを展開していかなければならない。

 野 4週8休への取り組みやi―Constructionの推進など、生産性向上をはじめとする働き方改革が浸透してきており、少しずつではあるが、建設業は着実に進化している。しかし、生徒たちは、業界の成長を感じているものの、親御さんの理解が得られなければ、業界への入職促進は厳しい。生徒だけでなく、影響力の大きい関係者への対応も進めていく必要があるだろう。

 和田 「身近すぎてよく知らない」というのが建設業。道路や建物など当たり前に存在しすぎていて、それを誰がどうやって造っているのか分からないし、注目もしない。ただ、その過程を見せたり体験させたりすることで、将来の選択肢の一つに成り得るのではないか。

 猿渡 建設業を目指す高校生だけでなく、工業高校に入る中学生も減少しており、地方の高校では定員割れも珍しくない。中学生や高校生時の進路選択に大きく影響するのは、同じ学校の先輩からの評価。在校生や卒業生の満足度を上げて、それを伝えていく。これが一番大事なことだと思う。

 竪野 県の施策でも中学生に対するアプローチが少ないのは事実。オープンキャンパスへの助成などを実施しているが、体験実習をはじめとした建設業を直接的に感じられるような施策がもっと必要だ。

■イメージアップ事業 一番の鍵は技術交流

 野 青年部主導の現場見学会などは2011年にスタートし、やがて10年目になる。先日は、熊本工業高校土木科の1年生を対象に学校敷地内で施工実習を開催したが、時折笑顔を見せながら楽しそうに取り組む姿を見て、本当にやってよかったと思えた。今回は1年生向けだったが、2年生には2年生なりの体験を、就職を控えている3年生になれば、さらに一歩進んだ実習など、段階的な取り組みが必要になってくる。

 和田 14年から建設業のイメージアップ事業として、県内の高校生を対象とした「建設産業ガイダンス」「魅力発見フェア」などに取り組んできた。各学校の先生方から県内への就職が増えていると話を聞くものの、これらの事業がどう結果に結びついているのか、就職がどのくらい増えているかなど検証していかなければならない。

 猿渡 生徒が建設業に入りたいと思う一番の鍵は技術交流にあると思う。現場の方と触れ合い一緒に造っていく中で、「すごい」「かっこいい」「自分もやりたい」という気持ちが芽生え、業界への入職に繋がっている。今まで続けてきた取り組みの方向性は間違っていない。

■実習で進路に変化 県内が増加傾向に

 猿渡 例年に比べ、今の3年生は県内に就職する割合が多かった。また、給料や福利厚生、会社の規模等よりも、やりがいや自分の成長など、違った価値観で進路を決める生徒が多かったように感じる。これも県のイメージアップ事業や青年部の実習等が少しずつ実を結んだ結果だと思う。

 村川 実習等で地元企業の方々と触れ合う機会が多く、とても好意的に接して頂いたこともあり、生徒たちの建設業へのイメージは確実に変わってきている。客観的に生徒を見ていると、とても楽しそうに実習に取り組んでおり、普段見られないような一面を見ることもある。また、実習でお世話になった企業に就職するケースも少しずつ出てきている。

 村田 情報技術の発展に伴い、情報を発信することは容易になった。しかし、今の中学生・高校生は、インターネットと共に成長しており小さい頃から情報を選別する目が鍛えられているので、表面的な情報発信やPRは通用しないと思う。やはり、実習のような直接触れ合い学ぶ機会というものは重要であり、実体が伴ってこそ情報発信等も活きてくると思う。

■持続可能な連携体制 地方への広がり期待

 野 経営と一緒で、短期と中長期のプランをしっかりと持っておかないといけない。1年2年で何をして、3年生の集大成にどう繋げるのか。我々がモデルとなり地方へ横展開できるよう、取り組みを洗練していかなければならない。

 和田 行政だけで企画しても机上の空論にしかならない。前線で活躍されている先生や企業からアイデアを頂き、施策に反映させるのが私たちの役目だ。こういった産学官の集まりを各地で実施し、情報共有していく必要がある。

 村川 大学を卒業してしばらく天草にいたが、県や企業の方と話す機会はほとんど無かった。しかし熊本工業高校に来てみると、産学官連携が活発で、地方との差を実感している。現在、地方工業高校の職員も若返りしていて、30〜40代が先頭を走っている。こことの繋がりがもっと増えれば、地方での連携強化が期待できる。

 猿渡 今後は、学校側が力を付けていくための連携が必要になってくるだろう。実習等を通して学校職員が技術やノウハウを蓄積し、行政や企業の負担を軽減することで、持続可能な連携体制が構築できるのではないだろうか。

提供:西日本建設新聞社
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