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中央ニュース

2023/08/01

建設トップランナーフォーラム「#戦略的広報のすゝめ」A

 アイ・エス・エス(東京都港区)は、建築・土木・電気・情報通信など多分野の構造物保全事業に携わり、社会インフラの総合的デザインに対して整備・維持管理・経営支援サービスを展開している。
 同社コンサルティング事業部・日本大学工学部客員研究員の浅野和香奈氏は、社会インフラ老朽化の課題を地域住民で解決する方法を模索する中、橋の知識を持たない人でもセルフメンテナンスが可能となる「簡易橋梁点検チェックシート」を作成した。「地域に愛される橋」を目指した広報戦略により、福島県平田村で村内の橋梁ほぼ全てを村民が簡易点検する体制を実現した。
 浅野氏は大学1年生の時から、村が資材を支給して住民がボランティアで施工を担う「資材支給事業」による道づくりに参加。この活動を通じて、住民が協働する「地域力」に魅せられるとともに、社会インフラの老朽化についても地域力で解決できないかと考えるようになった。「特に橋梁は数が膨大であるにもかかわらず、少ない技術者と限られた予算の中で維持しなければならない」と危機感を募らせた。
 そこで、普段橋梁を利用する住民も日常的にメンテナンスができるような、簡易橋梁点検チェックシートを作成。これにより橋に関する知識がなくても、汚れの有無や損傷の程度をまとめ、現状を把握できるようにした。「広報戦略の観点から、難しさを感じさせないようなデザインを目指した」というチェックシートはA4サイズの大きさでコンパクトにまとめられている。さらにチェック項目別に色を分け、柔らかいフォントを採用することで親しみやすい印象を与えている。また「橋の歯磨き」と称し、汚れ具合の基準を指数で「見える化」し、堆積土砂や雑草の撤去、排水升の清掃、高欄の塗装を促している。
 この他、「地域に愛される橋ならセルフメンテナンスの意識を醸成できるのではないか」と考え、番号で呼ばれている橋に名前を付ける「橋の名付け親プロジェクト」を実施した。多世代に関心を持ってほしいとの願いから小学生に名前を付けてもらうことにし、「33号橋」は「あゆみ橋」、「72号橋」は「きずな橋」となった。
 村の橋梁セルフメンテナンスは現在、地域の負担を最小限にするため、行政区長の主導で定期的に行われる道路清掃や河川クリーンアップ活動に組み込まれている。浅野氏は「自分の地域に橋がある。それは川があり、農業を営むことができるということ。橋の存在は地域の象徴であり誇りだ」という村民の言葉を紹介。住民同士のつながりや地域のコミュニティーによるインフラメンテナンスの在り方が示された。
(地方建設専門紙の会・建通新聞社)