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2015/08/04

新国立 今度こそオール・ジャパンで実現を(建通新聞社社説)

 新国立競技場の計画をゼロベースで見直す作業が始まった。従前計画の白紙撤回を決めた首相の意を受け、政府は関係閣僚会議を設置。秋口をめどに競技場の必要条件や総工費の上限などを盛る新計画を具体化し、設計・施工一体での事業者選定手続きを半年間で進める。2015年度末に着工し、20年春には完成させて、東京五輪に間に合わせる。
 従前計画が白紙撤回に至った最大の原因は、当初の2倍近くにまで膨み、多くの批判を受けた工事費。特殊な屋根構造、人手不足や資材の高騰の下での限られた工期などが膨張の理由とされ、首相判断は東京五輪までの完成が間に合うぎりぎりのタイミングだった。
 当初の想定は開閉式屋根を備えた8万人収容・延床面積29万平方bの規模で、工事費1300億円を投じ、東京五輪前年の19年ラグビーワールドカップ日本大会までに完成させるというものだった。
 この条件で実施された国際デザイン競技で、12年11月に外国人建築家による斬新な案が最優秀作品となったものの、忠実に再現すると工事費のアップが避けられないことが判明した。
 その後、計画は▽22万平方bに縮小、1785億円(13年11月)▽約21万平方b、1625億円(14年5月)▽電動可動席を簡易着脱式に変更、開閉式遮音装置を東京五輪後に整備、2520億円(15年7月)―と迷走。最終的に首相が白紙撤回する事態を招いた。
 従前計画は発注、設計、施工に直接携わる全関係者が実現を目指して最善を尽くした結果だったと信じたいが、世論の批判に耐え切れず夢で終わった。しかし、その批判は本来ならば関係者を支えるべき業界も受けなければならないだろう。
 国際デザイン競技の結果が出た後に唱え続けられた最優秀作品や計画に対する異論、「設計・施工分離」「設計・施工一括」「建築・設備分離」の相容れぬ発注方式を求めて繰り返された要望などは、発注者を大いに惑わしたに違いない。工事費を構成する管理費の増額と複雑な調整が避けられない工区割り、とりわけスタンドと屋根の上下2工区で、実施設計に対する技術協力もセットにした本体工事の発注(ECI方式)は、発注者が異論や要望に悩んだ末の苦肉の策だったかのように見える。
 そんな業界も、今回の事態を受けてプロとしての発言が目立つようになってきた。建築設計3会は関係閣僚会議への提言に、条件付きながら政府のいう「設計・施工一体の発注」を明記した。日本建設業連合会(日建連)の中村満義会長は「発注者も計画・設計者もわれわれゼネコンも、同じ方向を向いて力を出し切れば(東京五輪開催までの完成は)間に合う。間に合わせなければいけない」と意気込む。
 舛添要一東京都知事の「例えば1000億円に設定した予算が1300億円になったとしても、アスリートが喜ぶ、観客も喜ぶ、レガシーも残るのであれば、きちんと予算を掛けるべきだ」との発言は、見直し作業へのエールともとれる。
 東京五輪の成功を目指し、今度こそ夢に終わぬ計画をオール・ジャパンで実現させなくてはならない。