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2022/06/15

物価異変C 進まない価格転嫁

 日銀が4月に発表した全国企業短期経済観測調査(短観)では、建材などの仕入れ価格の上昇を販売価格(請負金額など)に転嫁できていない建設業の現状がうかがわれた。特に、大手よりも中小企業でその傾向は大きい。国土交通省のヒアリングでは、公共よりも民間の工事で契約金額見直しの申し出が困難な実態が浮き彫りになった。中小建設業や地域の工務店が置かれた状況は厳しさを増している。
 こうした分析を裏付けるのが、全国建設労働組合総連合(全建総連)が3〜4月に行った工務店への緊急アンケートだ。工事原価が「上がった」「かなり上がった」との回答は96%を占め、しかもその値上がり分を顧客に転嫁できたのは40・3%にとどまる。既に資金繰りがひっ迫している工務店もあり、「今は廃業も視野に入れている」との声が漏れ聞こえる。
 回答した工務店は、従業員4人以下がほとんど。多くが戸建ての住宅の新築やリフォームを手掛ける。
 価格を施主に転嫁できなかった理由は「既に見積書を提出していた」が最多。あまりに急激な値上がりに、既存の単価をベースにした見積もりが通用しなくなっているのだという。
 物価が上がっても、売上高のアップにはつながらず、ましてや利益率は64・9%が「下がった」と回答した。顧客が建材の高騰を受けて様子見に回ったことに加え、建材・設備の納期時期が不確かなため、工務店側が受注を断っているケースも多い。
 資金繰りへの不安も深刻だ。アンケートでは、「年末まで今の状況が続くと資金繰りが心配」との回答が41・3%。「既に、資金繰りがひっ迫」という声も16・7%あった。
 全建総連の橋健二住宅対策部長は、こうした状況が続けば「地域の建設業がいなくなってしまう」と警鐘を鳴らす。危ぐするのは、大規模な災害の発生後に、迅速な復旧対応ができなくなるような事態だ。価格転嫁の停滞は、地域社会の復興を遅らせることになりかねない。
 既に限界を迎えた建設業は増えてきている。帝国データバンクの調べによると、建設業の5月の倒産件数は前年同月比25%増の105件。建築資材の高騰と労務費の上昇を受けて、特に内装工事などの職別工事業の倒産が57・1%の大幅増となった。コロナ禍を受けた政府の大規模な資金繰り支援もあり、抑制されていた倒産件数がここにきて増加しつつある構図だ。
 全建総連の橋氏は「価格転嫁を避ける建設業の体質を変える必要がある」と説く。こうした企業風土は、値上げを忌避する消費者側のデフレマインドと表裏一体だ。円滑な価格転嫁を実現するには、「正当な値上げ」に対する社会全体のコンセンサスの醸成と、転嫁しきれない「痛み」に対する政府の手当てが欠かせない。

提供:建通新聞社