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2022/06/22

物価異変D 「適正利益」を守るには

 高騰する資材コストを誰が負担するのか。重層下請け構造の建設業界では、負担を押し付け合うことになりがちだ。それを避けるためは、下請けがコストの上昇分を明確に元請けに伝え、元請けがそれを基に発注者と交渉することが欠かせない。従来、材工単価の内訳を下請けが元請けに全てさらしたり、元請けが発注者に見せることは避けられる傾向にあった。終わりの見えない物価高・原油高が、受発注者や元下間の契約慣行に転換を迫っている。
 日本建設業連合会は4月、建設工事を発注する民間事業者・施主向けに、資材高騰を踏まえた契約額・工期見直しへの理解を求めるパンフレットを公開した。さらなる物価上昇を反映した5月版のパンフレットによると、建設資材物価は21年1月と比べて17%上昇。材料費の割合を50〜60%とすれば、労務費や仮設費、経費を含めた全建設コスト(平均)は「9〜10%上昇」したことになるという。
 とはいえ、既契約工事の値上げ交渉は容易ではない。契約時にスライド条項が設けられている公共工事は別としても、例えば国の補助を受けている私立の学校施設整備でも契約額アップを渋られる事例があるという。まして民間工事のハードルは高い。
 中央建設業審議会が決定した民間建設工事標準請負契約約款には、長期の契約で物価、賃金の変動があった際に請負代金額の変更を認めるよう規定されている。ただ、国土交通省が完成工事高上位の建設業者に行ったヒアリングによると、民間工事では物価変動に関する条項は「受け入れてもらえず、契約書に明記できない」といった声が寄せられた。
 中小建設業を取り巻く環境は輪をかけて厳しい。東京都中小建設業協会の渡邊裕之会長は自身の経験を踏まえ、あらかじめ契約書に物価変動を受けた協議を規定しておくことの重要性を強調する。「工種ごとに、建設会社が許容できる値上がりのボーダーラインを設けないといけない」というのが持論だ。
 もちろん、許容できるラインは会社の資金的余力、工事の利益率などによって異なる。下請けからの見積りも、より緻密(ちみつ)に取る必要が出てくる。
 渡邊氏は、こうした数字を積み上げ、発注者からの信頼を得ないと「中小建設業が生き残り、作業員にきちんと賃金を払える『適正利益』を示すことができない」と説く。「適正利益」は、建設業の働き方改革や、職人の処遇改善の原資でもある。「非常に難しいし勇気が要るが、やらなければ生き残っていけない」

提供:建通新聞社