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2011/03/07

既存超高層ビルの長周期地震動被害 制震部材の設置で大幅軽減

 既存超高層ビルに制振部材を取り付ければ、長周期地震動でも構造躯体はほとんど損傷しない―。日本建築学会は、内閣府から受託した長周期地震動対策に関する調査結果をまとめた。4日に記者会見した建築学会構造委員会の中島正愛委員長は、既存超高層ビルの長周期地震被害の軽減に向け、設備の更新などに併せて制震部材の設置といった事前対策を行うことが重要だと指摘した。
 東海・東南海・南海地震をはじめとする「南海トラフ巨大地震」は、今後30年以内に発生する確率が非常に高い。同地震の特徴であるゆっくり揺れる「長周期地震動」では、超高層ビルが共振して大きな被害が発生すると予測されている。このため内閣府では、超高層ビルの長周期地震動対策の調査を建築学会に委託。建築学会は、2007年から4年間にわたって調査・研究を進めてきた。
 調査は、関東、濃尾、大阪の各平野を対象に実施。報告書では、同地区に立地する既存超高層ビルは、東海・東南海・南海の3地震が連動して発生しても、崩壊するような被害が発生する可能性はほとんどないと結論付けた。ただし、大きな揺れにより非構造部材や家具などが転倒したり、柱と梁のつなぎ目が破断するなどの構造被害が発生する可能性は高いとした。
 さらに、被災直後の応急危険度判定や被災判定の実施は、点検個所が膨大で技術者も不足していることなどから非常に困難だとも指摘。施設規模が大きく利用者への影響が大きい反面、施設数が限られている超高層建物については、事前対策を積極的に行うことが重要だとした。
 事前対策についても解説。建物ごとに長周期地震動の影響を検証する必要があるとし、被害が大きいと判断された建物も、ダンパーなどの制震部材を取り付ければ、構造躯体の損傷を防げると結論付けた。制震部材の取り付けに当たっては、各建物が定期的に実施している設備や内外装の更新・改修工事に併せて行うことで、費用を大幅に軽減可能だとした。
 このほか、超高層ビルの移動に不可欠なエレベーターについて、少なくとも各棟1基は、耐震性能が非常に高いものに更新することや、地震計(加速度計)を建物内に常設することも有効だと指摘。被災後の応急危険度の判定も格段に実施しやすくなるとした。
 今後は、三連動地震動の予測に向けたデータの蓄積や、より信頼性の高い長周期地震動予測法の確立を進めるべきと課題を提起。建築学会は当面、長周期地震動対策の重要性を分かりやすく解説した冊子を発行するなど、幅広く関係者に対する啓発を行っていく方針だ。

提供:建通新聞社