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2013/01/17

新春インタビュー「2013年 私はこう見る」 国土技術研究センター理事長 大石久和氏

  イギリスのキャメロン首相は昨年、「われわれの社会資本が二流になれば、われわれの国も二流になる」と、生活基盤としてだけでなく、経済戦略的にも社会資本の重要性を強調している。1996年から2010年までの先進主要国の公共事業費を見ると、イギリスは3倍、アメリカは2倍、フランスは1・7倍に伸ばしている。このような中で日本だけが0・5倍以下と半減させている。こうした事実があるにも関わらず、「公共事業はばらまきであり、借金を積みましてきただけ」と喧伝(けんでん)してきた前政権に、「政府の公債残高の伸びの大半は特例公債であり建設公債ではない。事実誤認である」と指摘する国土技術研究センター理事長の大石久和氏に、新しい政権の誕生に合わせ、国土形成の視点から社会資本の重要性について語ってもらった。(聞き手は報道部 澤田久仁昭)

 ――わが国の社会資本が抱えているリスクをどのよに考えていますか。
 「この国の社会資本が他の先進国と比べてどの水準にあるのかという議論がないまま、公共事業をフローとしてだけでみていることが最大のリスクです。空港、港湾、道路あるいはそのほかの社会資本の整備費が、前年度と比べて増えたか減ったかというフローとしてしか議論されてきませんでした。社会資本(=インフラストラクチュアー)は国の安全を守り、国民の活力を引き出すストックとして考えるべきです。この国では、ストックの伸長が鈍く、社会の伸展に応じた十分な社会資本が国土に形成されていないのが実情です」
 「さらに言えば、高度経済成長期からストックを積み上げてきたにも関わらず、維持管理に対して十分なコストを掛けてきたとはいえません。中央高速道路笹子トンネルの天井崩落事故のよな悲惨な事故を二度と起こさないためにも、計画的な維持管理を行うことが重要です。1980年代の「荒廃するアメリカ」は決して他人事ではないのです。ストックは増えるが、維持管理は抑えるという非合理を早く是正することです。社会資本はストックとして正しく認識されたときに効力を発揮するものです。すなわち『国土に働き掛けなければ、国土は恵を返さない』ということです」
  ――新しい政権に変わりました。公共事業政策の方向性はどうあるべきでしょうか。
  「公共事業に対する逆風が依然として止まない背景には、これまで行政が公共事業の目的や効果について説明しきれていなかったという反省があります。国土の将来ビジョンである国土形成計画の内容は、抽象標語の羅列にとどまっています。実行計画としての具体性がありません。例えば、地方の空港や港湾、道路は発災時に有機的に連携してどのような役割を担うのか、そのような重要インフラは誰が責任を持って維持管理していくのかというように具体的に示すことが必要です。国家の将来像に対する曖昧(あいまい)さこそが、国民の理解を妨げている大きな理由です」
  「この社会資本整備への投資が、地域の課題をどう解決し、国の構造を変え、機能をどのように高めていくのかといった公共事業の意義と意味に対する丁寧な説明が不十分です。災害頻発国である日本における国土強靭(きょうじん)化計画を国民に分かりやすく示すことが新しい政権の使命です。首都直下や南海トラフに連なる大地震の発生率が高まっているという研究結果が報告されています。防災・減災の観点から、東京の過重な負担をどのように分散し代替するのか、発生率の高い地域の事前防災や予防減災政策をどのように構築していくのかといった本質的な議論を重ねてほしいですね」
  ――経済政策としての公共事業についての考えを聞かせてください。
  「まずは需給ギャップを埋めるデフレ脱却策を講じることが最優先です。それには即効性のある公共事業を必要な箇所に、効果的に切れ目なく財政出動することが極めて重要です。そこで大事なことは、防災や減災、あるいは老朽化施設の更新に関わる投資が国民に何をもたらし、将来世代にどのような便益を受け継ぐのかということをしっかり説明することです。公共事業は地方だけの問題ではありません。東京の社会資本整備も他の先進国主要都市と比べ劣悪です。安全な環境や物流の円滑化を確保し、高効率な街にしていくためにも、行政は社会資本を整備する目的を説明する責任があります」
  「卑近な例は、東京都の木造密集地域不燃化促進事業です。震災で同時多発の火災が起きた際、木造が密集する地域での延焼を防ぐ街路などを構築しようという事業です。土地区画整理事業や市街地再開発事業では時間が掛かり過ぎるため、直接買収方式で素早く整備していこうという施策です。この街路は延焼を防ぐだけでなく、街に光を採り入れ、風を呼び込み、緑豊かな歩道を設けることを可能にします。そこにストリートファニチュアーやベンチを置けば、地域の人々が陽だまりで憩う空間を創り出せます。現在世代が将来世代にこんな社会資本を引き継いだと胸を張れます。このような社会資本の継承ができる地域は日本にたくさんあります」
  「公共事業そのものにも社会資本を形成するという意義はありますが、民間活力を呼び起こすような安全で便利な社会資本を整備することも公共事業の役割りです。ここに家を購入して住み続けたい、商業施設や工場を進出してみようという民間の投資意欲を刺激する社会資本の整備は、公明党が主張する命を守る防災・減災ニューディール政策や、自由民主党が提案するしなやかで力強い国土強靭化計画にも合致した方向性です」
  ――国土形成の観点から、インフラの重要性をどのように考えていますか。
  「公共事業はストックです。フローだけではありません。私たち現在世代には、国土を災害に強く、美しく、豊かなものにするために、社会資本という贈り物≠国土に展開し、将来世代に引き継いでいく役割があります。私たちは過去世代からの贈り物の上で今を生きています。いただくだけいただいて、将来世代への贈り物はしませんという怠慢なことはあってはなりません」
「残念ながら、行政はこれまで、公共事業の必要性を十分に説明しきれていませんでした。新しい政権は、それを地域や国土、国家の将来像まで昇華させていくことが重要です。特にこれからは東アジアを抜きにしては考えられない国際情勢です。空港と空港、空港と港湾、港湾と港湾をどのような道路や鉄道で有機的に連携させようとしているのかも提示しなければいけません」
  「新しい政権の下で、震災復興、防災・減災、長寿命化などの公共事業あるいは社会資本整備を進めていくに当たっては、地域や国が便利で、安全で、豊かになり、その社会資本は将来世代に受け継いでいくというプランと、いつまでに、どこに、何を整備するのかという時間軸付きのプログラムがどうしても必要です。そうしなければ、国民はいつまでも、公共事業や社会資本について正しく理解できないでしょう。荒廃する日本≠ノならないためにも、新しい政権は、日本人が得意とする技術開発も含め、強い意思とリーダーシップで明確なメッセージを発信し続けるべきです」