トップページお知らせ >中央ニュース

お知らせ

中央ニュース

2013/07/13

建物内アスベスト吹付け訴訟 原判決を破棄・差し戻し 最高裁、初の民事損害賠償訴訟

 「土地工作物責任」を負うべきは誰か―。建物に吹付けられたアスベスト(石綿)による健康被害への建物所有者の損害賠償責任を問う初めての最高裁判決として注目されていた「建物内アスベスト吹付け訴訟(近鉄高架下文具店訴訟)」の裁判が7月12日、第二小法廷で開かれた。最高裁は、控訴審での事実認定が不十分とみて原判決を破棄、大阪高等裁判所に差し戻した。
 この裁判は、悪性中皮腫に罹患して死亡した建物貸借人の遺族が、建物所有者であり、賃貸人である近畿日本鉄道(近鉄)と近鉄ビルサービスを相手取って起こした国内で初めての民事損害賠償請求訴訟。一審(大阪地方裁判所)、二審(大阪高等裁判所)ともに民法717条が規定する「瑕疵(かし)」の意義とともに、「土地工作物責任」を負うべきは誰か―が最大の争点となっていた。
 土地工作物の設置または保存に瑕疵(かし)があることによって他人に損害を生じた場合、これまでの司法判断は、第一次的には当該工作物の「占有者」が賠償責任を負うとしてきた。その上で「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意を払ったことを立証したときは免責され、第二次的に所有者が無過失責任を負う」としてきた。
 近鉄は一審で「占有者は賃借人。被害者が責任を負うべき」と主張。これに対し、大阪地裁は「危険を支配、管理し、損害の発生を防止し得る地位にある者」が占有者であるとの解釈を示し、本件の場合、その立場にあったのは賃貸人であり、建物所有者であった近鉄だったと認定。アスベストによる健康被害訴訟で初めて、建物所有者の土地建物責任を認めていた。
 一方、二審(控訴審)の大阪高裁は「占有者は賃借人」だとしつつ、「賃借人は相当な危険防止措置を尽くしたと判断できる」として、建物所有者としての貸借責任を認定していた。
 土地工作物責任の第一次的な責任を負うとされている占有者が、賃借人なのか、それとも賃貸人なのかが大きな争点となったこの裁判。少なくとも一、二審とも賃借人のアスベスト健康被害に対する賃貸人の責任を認めており、二審は賃借人が危険防止措置を尽くしたと判断すれば、建物所有者としての賃貸人が土地工作物責任を負わなければならない―との判断を示している。
 建物所有者は、アスベスト含有建材を使用した建物に起因する健康被害への責任を問われることになるのか―。裁判の舞台は、再び大阪高裁へ戻る。

提供:建通新聞社