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2016/02/22

労働価値を計る基準を 技能労働者の低賃金改善(建通新聞社・建滴)

 安倍首相が目指す「成長と分配の好循環」は、経済成長により生み出された「果実」を社会保障に振り分け、さらなる成長の糧となる安定した基盤を構築する。そして、その上にイノベーション(革新)による新たな経済成長を実現するという循環を連続させていくことで成立するものだろう。この好循環を保つには、「果実」をどのように賃金の上昇や最低賃金の引き上げ、または社会保険への加入など社会保障の充実に結び付けていけるかが鍵となる。

 安倍政権誕生後の3年余りで、税収や就業者数、名目GDP(国内総生産)などが増え、完全失業率は減った。一方で、大手と中小との企業格差が開きつつあることも現実だ。従業員1人当たりの経常利益を分析したある調査によると、中小企業では製造業と非製造業の両方とも、3年余りで約18万円から約22万円に増えたのに対して、大手企業の製造業は約80万円から約160万円に倍増した。

 これでは、経済成長により生み出された「果実」が、賃金上昇や社会保障の充実に十分振り分けられているとは言い難い。埼玉県に本社を置き1次下請けとしてスーパーゼネコンや地元大手の内装工事を請け負う業者の経営者の1人は、「職人の賃金アップを約束できるほど、実際の請負価格は上がっていない。民間工事では、公共工事で使う設計労務単価にどこまで準拠しようとしているか疑問だ」ともどかしさを口にする。このような現場の声が減らない限り、経済の好循環は確実なものにならないことを再確認したい。国土交通省は、下請け中小企業に対して取引実態調査を始めており、3月には調査結果を取りまとめる方針だ。下請取引の適正化に向けたガイドラインの改定が待たれる。

 デベロッパーやゼネコンの経営環境は改善し、決算は総じて好調だ。過去最高益を記録した企業も少なくない。重層下請構造の建設業では、元請けの儲けを下請けに還元する仕組みを構築し直すことが求められている。市況が回復基調のこのときを構造転換の好機と捉えたい。

 しかし、いまだに標準見積書を使わず、法定福利費を含んだ従来型の見積書を使っている元請けがあるようだ。賃金の上昇や社会保障の充実を実現するには、仕組みの再構築とともに、現場で働く技能労働者の労働価値を計る客観的な基準が必要だろう。産業そのものの魅力を向上するとともに、技能労働者のプライドを保つ対価をどのような基準のもとに算定していくのか。建設業をサステナブル(持続可能)な産業に高めるには避けて通れない命題である。

 技能労働者の処遇改善は、直ちに働き方≠フ改革でもある。回復傾向にあるとはいえ、他産業と比べると技能労働者の賃金は依然として低い。例えば「民間工事における設計労務単価」を示すことが可能かどうか議論の土俵に上げてみてはどうか。大量退職時代を目前に控え、技能労働者が、いかにして、誇りを持ち、生き生きと働ける仕組みをつくるか、官民で知恵を絞りたい。