土木学会の第105代会長に就任した大石久和氏(元国土交通省技監)は、専門紙などとの共同インタビューに応じ、「土木は哲学を必要としているし、それを語らなければならない」との認識を示した。その上で、「ストック経済が経済学の関心ごとではない以上、土木(に携わる私たち)が語らなければならないことは多い」と指摘。「国民に自分たちの暮らしと土木との近さに気付いてもらう必要がある。そのためにも土木のスコープを広げたい」などと話し、具体的なアプローチとして「安寧(あんねい)公共学懇談会」など三つのタスクフォースを設置する考えを示した。
―土木のいまをどう見ているのか。
「土木は、いま危機にある。それは国民に土木が生み出す価値とその効果を還元できていないからだ。その結果、土木が国民生活を支えているという認識を持ってもらえないでいる。国民に自分たちの暮らしと土木との“近さ”を実感してもらう必要がある」
―国土学を提唱する一方、「一般政府公的固定資本形成」などのデータを用いてインフラを客観的に分析し、その価値と必要性を説いている。
「この20年間、インフラ投資は先進国の中でわが国だけが半減以下というレベルにまで削減されてきた。この間、他の先進国のほとんどが2倍、3倍の伸びだった。わが国のようなインフラ軽視は世界の歴史を見ても例がない。経済学もそうだ。東名高速道路や新幹線が500兆円ものGDPを生み出すためにどれだけ貢献してきたのか―評価していない。であるならば、ストックの効用の最大化に最も関心を持つ土木が、その価値を示さないといけない。そのためにも土木のスコープを広げなければならない」
―その具体的な手段、活動は。
「2017年度は新たに「安寧(あんねい)公共学懇談会」「レジリエンスの確保に関する技術検討委員会」「国土とインフラの維持管理・更新についての新たな挑戦」―の三つのプロジェクト(タスクフォース)を立ち上げる」
「大学の土木のカリキュラムには『概論』がない。学生たちに何のための、誰のための工学であり、土木なのか、私たちが示す必要がある。国民にはインフラ整備が何のため、誰のためなのか説明できるようにしなければならない」
―「土木」を再定義したいということか。
「再定義と言えなくもないが、少し違う。土木は、土地を使い、構造物を築き、環境を形成し、そして経済に効果を与えている。言い換えれば人間の生存を可能にする学問であり、そのプロセスと、学問的あるいは方法論的な深化の全てが土木だ。営々と築いてきた社会資本をより良い資産として次世代に引き継ぐ責任が私たちにはある。会員の皆さんとともに、確固とした土木の地平を拓いていきたい」
提供:建通新聞社