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2018/01/09

【連載】ツタワルドボク(4) モノをつくり守るのはヒト

【連載】ツタワルドボク(4) モノをつくり守るのはヒト
ツタワルドボク会長 片山英資

 1982年7月23日、長崎大水害が発生した。私の実家は被害が大きい長崎市の鳴滝・奥山地区の川のほとりだった。家の一階が川となり、命からがら救助された。家の横に架かっていた橋が流木や岩で堰き止められ、氾濫を起こしたのだ。翌朝「全て流されていたら0からやり直しだ」と真剣に語る父に連れられ、一家で家を見に行った。家は一階が柱と土砂という状況だが、流されずにそこにあった。しかし、川の堤防はえぐれ、橋は無くなっていた。ツタワルドボク 第4回(九州北部豪雨直後に活躍する土木技術者)_1

 被災後、復興に向けて身も心も慌ただしい大人達には申し訳ないが、私は最高の楽しみを手に入れた。二階の自分の部屋が、河川の護岸工事、当時はコンクリート橋の架け替え工事の観覧特等席となったのだ。重機を颯爽と操る土木技術者がカッコよく見えた。そして、3時の休憩時間には、母がお茶を差し入れし、「ありがとうございます」と頭を下げ、竣工すると家族皆が「これでぐっすり眠れる」と感謝した。名もなき土木技術者達は私の憧れのヒーローだった。私は迷うことなく土木技術者になった。

 今、土木技術者は輝いているだろうか。テレビで犯罪者といえば土木作業員、子供達の前で大人達が工事現場の前で「また工事か!」と吐き捨てる。

 そんな中、自らの振る舞いを省みる。作業着のままで、夜の街に繰り出し、昔はやんちゃしてたオーラを出し、縁の下の力持ちと言い訳し、居心地の良い「なかなか認められない自称ヒーロー」という地位にあぐらをかいている。そして、「マスコミが悪い」「政治家が悪い」と焼酎の愚痴割りが続く。

 これまで、日本の土木技術者達は、豊かな今を創ってきた。そして、今も技術を磨き、アジアをはじめ世界にその技術を継承し、貢献している。災害大国日本には、優秀な土木技術者が絶対に必要である。生活スタイルや各地の土地利用形態も時代とともに変化する。各地に活躍できる技術者が継続的に生まれてこその安心安全である。

 2017年7月の九州北部豪雨でも、直後から地元の土木技術者達は、人命救助への道を切り開き、大型土嚢を決壊した護岸に並べ、常に未来の「あたりまえの暮らし」を守っていた。ヒーローはまだ確実にいた。絶対に土木技術者に光をあてる。私は改めて現場で決意した。