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2018/02/06

【連載】ツタワルドボク(8) 思いやりの蓋

【連載】ツタワルドボク(8) 思いやりの蓋
マンホールハンター 出水享

 路上にある直径60pの丸い鉄『マンホール蓋』。その下には、市民の生活に大切な上水道、下水道などの地下インフラが存在する。マンホール蓋は地下インフラをメンテナンスするための点検孔の役割を果たす。蓋の材質は、鉄、コンクリート、プラスチックなど様々であるが鉄製が一般的である。
ツタワルドボク 第8回_思いやりの蓋_1
 日本の鉄製の蓋の始まりは明治の黎明期にさかのぼる。当時のデザインは格子状のものが多く、その後、大正、昭和と時代の変化とともに凝ったデザインが使われるようになった。

 東京オリンピック直後からモータリゼーションが進み、道路に求められる要求が高まってきた。その一つが『滑りにくさ』である。雨の日でもバイクが安心して走行できる舗装が求められるようになった。マンホール蓋も同様である。従来の蓋は凸凹部の比率を変えること、直線的な模様を避けるなどの工夫を行い滑りにくさに対応してきた(と言うよりそれで対応できていた)。しかし、モータリゼーションが進み従来の蓋では対応しきれなくなった。そこで、『滑りにくい蓋』の開発にいち早く取り組んだのがH社である。

 蓋が滑りやすくなる原因は蓋表面の摩耗や蓋とタイヤの接触面に水や砂が挟まることによる摩擦抵抗の低下。これらの問題を解決するために開発された蓋は従来の蓋とデザインや構造が異なり、突起物が無数についている。突起物が多いと摩擦抵抗が向上して滑りにくい蓋となるが、走行性が低下してしまう。そこでライダーによるフィーリング走行試験を何度も繰り返し、突起の間隔や形状をその度に変えた。試行錯誤の末、舗装面と同等またはそれ以上の摩擦抵抗・走行性を保有する蓋の開発に成功した。

 走行性(乗り心地)を追求していることから『思いやりの蓋』と呼んでも過言はない。これこそ世界に誇れる日本の技術力といえる。その後、各社が滑りにくい蓋の開発に成功し、全国で利用されるようになった。

 しかし、滑りにくい蓋の普及は遅れている。未だに従来の蓋が利用されており、ライダーのスリップ事故の話を耳にする。ライダーが道路を安心して走行するためにもいち早く『すべりにくい蓋』への取り換えを期待したい。