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2018/03/27

建設市場と企業評価 「育てる力」を競争力に(建通新聞社・建滴)

 2017年度も残りわずかとなり、4月からは新卒採用の新入社員を迎え入れる企業も多いはずだ。労働市場が売り手優位の今、採用を確保できたことに胸をなで下ろす経営者も多いだろう。ただ、新社会人を会社、現場の戦力とするまでには、気の長い社員教育が必要だ。
 技術と技能で成り立つ建設業にとって、新入社員を教育する意義は事務系職種よりも重いはずだが、それとはかけ離れた実態が国土交通省国土交通政策研究所の調査で明らかになった。
 建設会社1736社を対象に建設業界の就職・採用活動を調査したところ、新規採用の技能者が現場に出るまでの研修日数を「7日以内」と回答した企業が全体の46・5%と半数近くを占めた。「30日以内」の14・7%、「15日以内」の12・8%に続き、「0日」との回答も12・2%あった。
 建設業では人材育成を現場に任せるOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が根付いていることも背景にあるのかもしれないが、ある技術者向けサイトが行った別の調査では、製造業系のエンジニアの新入社員研修の平均は2・9カ月。研修の期間・内容は企業規模・職種によって異なるとは言え、この差は小さくない。
 ただ、国土交通政策研究所の調査で、人材育成の問題点を尋ねる設問(複数回答)では「時間をかけて人材を育てる余裕がない」(全体の56・9%)、「人材育成に予算がかけられない」(25・4%)といった声も多く寄せられた。「教育の担当に適した上司・先輩社員がいない」と答える企業も22・3%あった。建設投資の低迷によって眼前の受注を優先せざるを得なかった建設業は、技能を継承する暗黙知を失いかねない危機的状況にある。
 こうした背景には、多くの企業で技能が技能者本人の処遇や雇用する企業の評価につながっていない現状がある。技能者は、技能やマネジメント能力を身に付けても50代に入ると賃金が低下する傾向にあり、このことが「将来のキャリアパスが描けない」と、若年技能者が離職する要因の一つにもなっている。
 そこで今、国土交通省が検討しているのが技能者の能力評価制度だ。今秋稼働する建設キャリアアップシステムで把握できる「就業日数」と「保有資格」を基に、技能者を4段階で評価する。専門工事企業は、この評価に現場での働きぶりを加え、技能者の具体的な処遇を決めることが可能になる。
 技能者個人の能力評価を企業評価にも直結させるため、同省は専門工事企業の評価制度も構築する。技能者の人数、技能者個人の能力評価を指標に企業の施工能力を評価し、発注者・元請けへの活用を促す。2019年度の運用開始に向け、いずれも今夏に制度の枠組みを固める。技能者の能力評価の結果を公共工事における評価に活用することも検討している。
 新社会人の多くは、希望と不安の両方を抱えてこの産業に飛び込んでくる。建設業にはそんな彼らを「人材」に育て上げる責任がある。その人づくりの力が「建設市場」で評価され、社会からも人づくりに真剣な産業だと認識される、そんな好循環を期待したい。

提供:建通新聞社