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2018/02/20

【連載】ツタワルドボク(10) 「伝える」と「伝わる」の差

【連載】ツタワルドボク(10) 「伝える」と「伝わる」の差
ツタワルドボク会長 片山英資

 「伝えたこと」は「伝わったこと」ではない。「伝わったこと」が結果的に「伝えたこと」になってしまう。
 インフラ維持管理の重要性に対する理解が今ほどなかった2012年の出来事だ。当時の私は福岡北九州高速道路公社に勤めていた。担当は維持管理のマネジメントで、私のチームは将来に良質な都市高速を引継ぐという使命感を持って、維持管理投資の拡充を図った。
ツタワルドボク第10回_市民と技術者の対話の様子_1
 有料道路事業を単純に説明すると、借入金で建設し、通行料金から収入を得て、管理運営の経費を支出として、差額で借入金を返していく。そして、借入金を返し切ったら、無料道路となるという制度だ。そのため、維持管理投資の拡充を図ることは、支出の増加となり、通行料金の値上げなどで収入を増加するか、借金の返済期間を延長してもらうしか道はない。そこで、返済期間を延長して拡充を実現した。そして、達成の高揚感とともに「未来への投資を実現した」と記者発表を行った。

 しかし、翌日の新聞全紙は大々的に「都市高速無料化を先送り」と報じた。その日、私の携帯電話には、業界外の知人から「お前何やってるの!」とお怒りの言葉が投げつけられた。その後、必死に「子や孫の世代の未来のために…」と熱く語るも、聞く耳を持たない人には伝わらないことがヒシヒシとわかった。もう手遅れだった。

 誰でも目を閉じて思い返せば、少なからずこんな経験があるだろう。そして、正確に伝えることが、いかに難しいかは頭では理解しているはずだ。しかし、腹落ちするには至っていない。そして、目に見える成果に対して実直である分、伝えることへの努力を諦める。

 近年、全国でツタワルドボクと同じ志を持った活動をしている仲間が増えてきた。しかし、未だに管理者は市民に対して「説明責任を果たす」という言葉を多用してないだろうか。技術者は地元説明をアリバイづくりと思っていないだろうか。それは、最低限の努力の正当化だ。土木技術者自らがその意義や魅力の伝え方を真剣に考え、挑戦してみよう。
 伝えたい人の個性が千差万別であるように、伝える手段は沢山あり、正解はない。やり方がわからないと悩むなら、まずは、肩の力を抜き、市民と向き合って素直に対話してみてはどうだろうか。必ず、貴方の誇りとアンテナは刺激されるはずだ。