トップページお知らせ >中央ニュース

お知らせ

中央ニュース

2022/08/23

第16回建設トップランナーフォーラム(6)

 東日本大震災を契機に感じた「人々が求めている絆やつながり」。何かの形で実現できないかと始めたのが、地域の農産品などを持ち寄るセレクトマルシェ「暮らしの広場」だった。その運営を通じて新たな拠点の必要性を感じたため、自社の敷地内にカフェや料理スタジオ、ギャラリーなどを設けた「暮らしの森」を整備。こうして広がっていく地域との関係が次の一歩につながっていく。
 暮らしの森が地域の拠点として機能し始めた2017年、空き家バンクの紹介事業者として、近隣の「UDONHOUSE」の開業に携わった。宿泊を前提に讃岐うどんを学ぶ体験施設で、外国人を含め多くの人が訪れるようになる。さらに、海水浴場として親しまれていた父母ケ浜が「日本のウユニ塩湖」として紹介されると年間40万人もの人が訪れる観光スポットに。一方で地域の課題も顕在化する。深刻な宿泊施設の不足だ。
 そこで、地域課題の解決につながりを強めていた地元企業11社が「競争から共創へ」を合言葉に立ち上がる。自ら出資して株式会社を設立し、事業や仕事を創っていく新たな取り組みとして「URASHIMA VILLAGE」の建設・運営に乗り出した。
 施設の建設に当たっては、地域に受け継がれる“浦島太郎伝説”をコンセプト設計とデザインに反映させつつ、瀬戸内沿岸部で古くから使われてきた焼杉を用いることで塩害を防ぎながら地域の景観に合った建物外観を創出。エントランスや内装、構造材に香川県産ヒノキを、擁壁には地域の石材を、内外装には近くの土や漆喰、土佐和紙などを活用した。さらに、出資メンバーのノウハウを生かし、四国初の“100%再生可能エネルギーの宿”として、自己発電や蓄電池を設置し、系統電力にも自然エネルギーを利用することにした。
 2021年1月にオープンしたこの施設は、同年11月、「ウッドデザイン賞2021」の最優秀賞(農林水産大臣賞)を受賞。地域資源を生かしたアクティビティや企業などのワーケーションの受け入れの場として、地域の宿泊施設の拠点となっている。
 四国では少子高齢化と人口減少が全国よりも早く進む。しかし、「新たな地縁・結い、コミュニティーづくり」を理念とする同社の取り組みは、地域課題の解決と活性化に結び付きつつある。代表取締役の藤田薫氏は「資源がない、資金がない、人材がいないと『ないことを嘆く』のではなく、『ないものはつくる』『できないことはできる人とやる』ことが重要」だと説く。観光客が増えさまざまな人が訪れる中、「ホテルの誘致や大規模な商業施設を待つのではなく、マイクロなビジネスを自分たちで創り、運営、連携していくことで、本当の意味で地域経済が循環する」。(地方建設専門紙の会・建通新聞社)