トップページお知らせ >中央ニュース

お知らせ

中央ニュース

2015/11/16

杭工事のデータ流用 (建通新聞社・建滴)

■建設産業全体で向き合え

 建設業団体や国土交通省でつくる建設産業戦略的広報推進協議会は10月26日・31日にさいたま市内の小・中学校で「建設産業ものづくり体験授業」を開いた。協議会とさいたま市が連携し、小中学生のキャリア教育として建設業の仕事を身近に感じてもらうための取り組みだ。

 改正品確法の基本方針には「子供たちが土木・建築を含め正しい知識を得られるよう学校におけるキャリア教育・職業教育への建設業者の協力を促進する」との一文がある。

 協議会は昨年度、工業高校生に建設業の魅力を訴える「工業高校キャラバン」をスタート。今年度はこの基本方針で示されたように、より年齢層が低く、建設業についての先入観がない小中学生にもターゲットを広げた。

 体験授業には、埼玉県発祥のハウスメーカー・アキュラホームの宮沢俊哉社長がカンナがけの技能を披露したり、ロボットスーツの体験コーナーを設けるなど、子どもたちに少しでも関心を抱いてもらおうという工夫が見受けられた。体験授業の中で「建設業に就職したい」と答える中学生もおり、社会資本の重要性、社会資本整備に建設業が果たす役割、ものづくりの喜びなどを理解してもらえるいい機会になったようだ。

 ただ、体験授業に参加した小中学生はそもそも建設業にどのようなイメージを抱いているのだろうか、とどうしても考えてしまう。横浜市のマンションでの杭工事のデータ流用問題は連日報道されている。体験授業を受けた小中学生も何らかの形で報道に触れているはずだ。不正があった施設には、子どもにも身近な住宅や公共施設も含まれている。「自分の住むマンションは、通っている学校は、大丈夫だろうか」と不安に思う子どもらも多いだろう。

 建設業に対する固定観念がない若い世代に対し、建設業が本来持つものづくりの魅力を訴えるのがこの体験授業のそもそもの狙いだ。問題の本質は大きく異なるとは言え、免震ゴムのデータ改ざん、落橋防止装置の溶接不良と、ことしに入って建設産業をめぐる不祥事が相次いで起きている。杭工事のデータ流用が、若い世代が抱く建設業のイメージに与える影響は大きい。

 杭工事のデータ流用問題で、再発防止策の検討を始めた国交省の「基礎ぐい工事問題に関する対策委員会」で委員長を務める深尾精一首都大学東京名誉教授は「建設工事に実際に携わる方々がこの問題を真剣に捉え、改善の方向性を示す作業が今最も求めらるのではないか」と初会合後の会見で指摘した。続けて「(この問題を契機に)少しでもコンプライアンスを改善できれば、災いを転じて福となすことができる」とも話した。

 一連の不正が一部で起きた悪質なケースだと切り捨てるのは容易だ。再発防止には、これまで放置されてきた現場の施工管理をめぐるさまざまな課題に、建設産業に携わる全ての発注者、建設企業、技術者、技能者が真摯に向き合うことが求められる。失われた信頼を回復することができなければ、社会資本の重要性やものづくりの魅力をいくら訴えても、若者をこの産業に呼び込むことはできない。