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2015/12/21

未来に継承したい「公共財」 土木遺産と地域資産(建通新聞社・建滴)

 日々の暮らしと経済活動の中に、それはある。朝目覚めてから、夜眠りにつくまでの間、私たちが当たり前のように使い続けているもの、それがインフラだ。水道、下水道、道路、橋梁、鉄道や地下鉄…一つでも欠くようなことになっては現代社会は成り立たない。

 だが、この世に生まれ出たその時から、インフラによってもたらされる利便性を当然のこととして享受し続けてきた多くの日本人にとって、それは使うことができるのが「当たり前」のモノであって、「恩恵」や「感謝」という言葉とは連動しない存在となってしまっているようだ。

 2015年のいまを生きる私たちが「当たり前」のように使い続けているインフラの中には、この国が欧米列強に追いつこうと、必死に背伸びし、時にはジャンプしながら「近代国家」の基盤を築く中で、なけなしの国庫などから投資され、建設されたものも少なくない。1885年(明治18)年に竣工しながら、今なお都民の暮らしを支える、この国最初の近代下水道「神田下水」は、その最たる例だ。

 今日の日本の繁栄は、往時の為政者の卓見と、使命感を持って国民生活の向上と産業立国に尽くした技術者たちの存在があったからこそ。以後もたえず変化し続けてきた社会・経済環境の中にあって、時の為政者、行政、そして国土の建設に携わる全ての人たちが綿々とインフラを整備し、適切に維持管理してきた結果に他ならない。

 土木学会(会長、廣瀬典昭・日本工営代表取締役会長)では、こうした先人の偉業をたたえ、先輩技術者の尽力・先見性・使命感への理解を、将来の文化財創出への意欲、技術者としての責任の自覚などにつなげようと「土木遺産」を選定し、顕彰している。

 学会が顕彰の効果として期待しているのは、歴史的な社会的意義・文化的価値の啓発もさることながら、まちづくりでの積極的な活用だ。

 言い換えれば、橋梁や水道施設などの先人から継承した歴史的土木構造物が、地域の自然・歴史・文化の一部であり、地域の「共有資産」だとの認識が広がることだ。

 東京都内では2015年11月末現在、11件12構造物が「土木遺産」に選定されている。今なお現役でそれぞれの機能を発揮し続けるこれらの構造物は、かけがえのない「公共財」であり、大切に次代へ継承していかなければならない都民、国民の遺産だ。

 近代日本の黎明期から今日に至るまで、その時々の為政者とその付託に応えた技術者たちは、それぞれの立場で未来を見据え、それぞれが努力して獲得し、集積した知識、そして磨き抜いた技術力を駆使して、後世に生きる私たちが今もなお「当たり前」のように使えるインフラを築いてきてくれた。

 いまを生きる私たちもまた、決して自分たちの足元だけを見ることなく、これからの時代を生きていく人たちの暮らしや社会の姿を想像していきたい。未来の社会にあってもなお、「公共財」として次代へ、次代へと継承されていく―。そうしたインフラを整備し、大切に維持・管理していきたい。決して、遺産を食いつぶすだけの愚者になってはなるまい。