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中央ニュース

2019/10/02

原点回帰〜複業で地域を支える〜

第14回建設トップランナーフォーラム(9) 
第3部 再生可能エネルギー・環境事業への進出 富山県の小型水力発電と地域水道の維持

■地域インフラ維持の事業フレーム構築

 深松氏3_1深松組(仙台市)の深松努代表取締役社長は、同社創業の地である富山県朝日町で展開する「小型水力発電と地域水道の維持」について話した。小型水力発電で得られた売電収入を、老朽化した簡易水道施設の更新費用に充てようという異例の試みだ。深松社長は「日本には過疎化により地域インフラの維持が困難になるところが増えてくる。しかし、知恵を絞れば日本は守れる」と強調した。

 富山県東部に位置する朝日町笹川地区は100世帯余りが住む山間部の集落。名前の通り水の豊かな清流「笹川」が流れ、集落の人々は水と共に暮らしてきた。一方、簡易水道が整備されてから数十年が経過し、老朽化が著しくなっていた。その更新には億単位の費用が掛かることが分かり、笹川地区の最も深刻な問題として住民を悩ませてきた。

 こうした中、水道施設の更新や維持管理に要する費用を確保するための手段として、新たに最大出力200`h程度の小水力発電設備を設置し、その売電収入を充てることを深松社長が提案した。

 今は仙台に本社を構える深松組だが、朝日町とは関係が深く、北陸電力の水力発電所の建設工事を機に1952年に創業した経緯がある。特に生まれ育った笹川地区に対して深松社長には深い愛着があり、「この窮状を何とかしなければならない」という強い思いが提案のきっかけとなった。

 その事業化に当たっては、事業の安定性・継続性を確保する観点から、信託方式を採用。信託のスキームを使った地域活性化で実績のあるすみれ地域信託(岐阜県高山市)と共に事業計画を立てた。総事業費約8億円に対し、年間売電収入は低めに見積もっても4900万円と試算されるため、20年間の事業期間で事業費を十分回収できるという。

 事業を進める上で最も重要な地域の合意形成に際しては、「水道設備の刷新と小水力発電によって地域の維持が可能となる」ことを住民説明会などの場で訴えると、朝日町や笹川地区の住民から賛同が得られた。さらに事業に必要な用地は土地所有者が無償譲渡してくれたほか、朝日町は条例を改正して補助制度を創設。北陸銀行も低利融資に応じるなど多くの支援を受けながら、現在は測量・設計の段階に入っているという。2020年の雪解けを待って工事に着手し、小水力発電は21年秋の稼働を目指している。

 深松社長は「こんなに喜ばれる仕事はほかにない」と大きな手応えを感じている。そして、「地域建設業が生き残るためには、地域に必要とされる建設業になることが不可欠」との思いを新たにした。事業期間が終了する20年後からは、地域の水道料金を無料化して笹川地区の魅力を高め、地域の活性化につなげる構想も描いている。(地方建設専門紙の会)

地方建設専門紙の会