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2018/06/12

連載「どう生かす 建設キャリアアップシステム」第4回

■第4回 ID保有を技能者の証明に
 芝浦工業大学 蟹澤宏剛教授

 建設キャリアアップシステムに登録した技能者には自身の就業履歴や保有資格をシステムに蓄積するためのIDカード「建設キャリアアップカード」が配布される。芝浦工業大学の蟹澤宏剛教授は、システム構築の最大の意義として「登録した技能者がこのIDカードを『建設職人』である証明に活用できることだ」と指摘する。システムを活用した技能者の能力評価、専門工事業の企業評価を議論する検討会の座長を務める蟹澤教授にシステム構築の意義を聞いた。キャリアアップ連載(蟹澤)_1

―今の技能者の処遇をどのようにみていますか。
 「欧米の技能者と比べると、日本の技能者の賃金は半額程度。日本の建設業では、平方bいくら、1軒いくらで請け負うため、腕が良く、施工のスピードが速い技能者は自然と評価が高まる。このために『技能者に能力評価はいらない』という考え方が古くからある」
 「投資が伸び、売り手市場であれば、技能者の賃金も上昇する。しかし、投資が減少し、ダンピングで請け負う業者が増えれば、技能者の能力よりも需給の関係で賃金が決まるため、必然的に賃金は下降することになる」

―需給に大きく左右されず、技能者が能力に見合った処遇を受けるために建設キャリアアップシステムが必要ということでしょうか。
 「システムに蓄積された就労履歴や保有資格を処遇に反映させることは極めて重要。ただ、私はそれ以前に、技能者を第三者が『建設職人』であると認め、正規のIDカードを発行することに意味があると考えている」
 「ドイツのマイスター制度では、徒弟訓練を数年受けた技能者が初めて会員の資格を取得し、技能に見合った賃金を受け取ることができる。米国では、職別労働組合のユニオンの訓練を受けると、ユニオンが企業と賃金交渉してくれるようになる。いずれの制度も、訓練・評価・処遇が三位一体の関係にあるのが特長だ」
 「日本にはそうした制度がないため、建設キャリアアップシステムでは、IDで技能者の身元を確認するところから始める。まずは登録する技能者数を増やし、正規IDを保有者が造るインフラは信頼できる、ということを社会にアピールする必要がある」

―技能者の能力評価、専門工事業の企業評価は、どうあるべきだと考えますか。
 「技能者は、まずIDの有無で評価し、IDを保有する技能者は就労履歴、保有資格から4段階で評価する。高い評価を受ける技能者を何人雇用するかが企業評価の評価項目になる。最終的には元請けの判断になるが、業界内の目安としてID保有者が半分以下の専門工事企業はまずい、となることも考えられる。IDカードの有無で処遇に差が付くようになればと期待している」

―システムに登録する企業、技能者が増えるためには何が必要でしょうか。
 「地域の建設企業がシステム登録にメリットを感じない理由には、公共発注者の問題がある。特に市町村は依然として『安ければ良い』という意識で工事を発注している。『身元確認ができた技能者を雇用する優良な企業に発注しよう』『適切に納税する企業に発注しよう』という意識へと転換する必要がある」
 「発注者の先に見据えるべきは国民。国民が『安ければ良い』と考えているため、発注者も同じ意識を持ち続けている。働き方改革で運送業が価格転嫁に成功したように、国民への訴求をコストアップのきっかけにすべき。その意味で建設キャリアアップシステムの稼働は、建設業に大きなチャンスをもたらすはずだ」